2017年5月5日金曜日

誤嚥性肺炎

日本呼吸器学会が出しているガイドラインがある。手元には最新の「成人肺炎診療ガイドライン2017」がないので、古いものからの引用だが、院内肺炎の危険因子として、次のようなものが挙げられている。

・誤嚥をきたしやすい状態: 脳血管障害、多量の鎮静剤投与、胸腹部の手術
・慢性呼吸器疾患: COPD、間質性肺炎、気管支喘息、びまん性汎細気管支炎、慢性気管支炎、気管支拡張症、肺結核、じん肺
・心不全、肺水腫
・糖尿病、腎不全、慢性肝疾患
・H2ブロッカー、制酸剤投与
・長期の抗菌薬投与
・65歳以上の高齢者
・悪性腫瘍

こうした条件を満たす老人は、病院にいるともかぎらない。つまりは「院内肺炎」というが、個人的には自宅で要介護状態の老人にもこうしたリスクを抱えた一団がいるわけだ。イメージがわかないと思うので、我々がよく救急で診るタイプの患者をお示ししよう。


● 89歳、男性。
脳梗塞後遺症で寝たきり。ADLは全介助。脳梗塞で倒れるまではタバコを欠かさない人だった。15歳から70年間×毎日40本ものタバコのせいで、COPD(いわゆる肺気腫)になった。頑固な性格で家族の忠告にも耳を貸さず、飲酒量も多く、アテに塩辛いものを好んで食べ、高血圧、糖尿病や肝硬変もある。不整脈(心房細動)もあり心不全である。難聴で意思疎通も難しい。

脳梗塞の後遺症で、飲み込むのに支障をきたしていた(嚥下障害)。ヘルパーが食事を口に運ぶと、飲み込むのに時間がべらぼうにがかかる上、むせていた。ここ最近はむせなくなった一方で、食事の量も減ってきた。38度台の発熱が続いているので、開業医を受診して抗菌薬が処方されたが、熱が下がらず食事の量も増えないとして、救急外来に紹介された。

採血では炎症反応が高値で、酸素化も悪い。レントゲン写真で両側の肺に浸潤影があり、胸部CTでも肺炎像がある。気管支に液体がたまっており、両側の背側に浸潤影が広がる。線維化も認める。昨日今日発症した誤嚥ではなく、だいぶ前から誤嚥を繰り返していると考えられた。

抗菌薬を投与したが発熱が続き、喀痰の量も多い状態が続いた。むせることもないぐらい嚥下反射が残っていない(不顕性誤嚥)状態で、痰の多さに比べて咳は出なかった。耳鼻科医の診察にもとづき、言語聴覚士による評価やリハビリを行なったが、唾液すら気管~気管支に流れ込む有り様で、食事再開は絶望と判断された。当然、形のある食物のみならず、水分すら飲み込めない。トロミをつけようが無理であった。

「口から食べると間違いなく誤嚥して、窒息するか重篤な肺炎になって人生を縮めることになる、いわば寿命である」と説明したが、「何も食べさせないのは忍びない」と家族がいきり勃ち、リハビリ目的での転院を強く求めてきた。新聞記事やブログの切り抜きを示し、「リハビリすればうちの爺ちゃんは必ず食べられるようになる!食べられないのはお前らの怠慢だ」と強くなじられた。家族が希望するような、リハビリを受け入れてくれる施設はなかった。家族も現実を次第に受け入れるようになった。

今後の対応について選択肢を提示した。
1)何も食べさせずに自然のままで人生を終える。
2)水分補給のみ行う
3)人工的に栄養を投与する

家族は当初、3)を選択した。もはや医療行為というよりは延命が目的となるので、栄養を投与するだけならば在宅復帰が前提でないと転院ができないこと、療養病床はどこもいっぱいで転院までには長期間の待機時間があり、急性期病院としての性質上、当院でその間ずっと置いておくことはできず、いったん家に帰っていただく必要があることなどを説明した。すると「家では面倒が見切れないから、絶対に家に寄せ付けないでほしい。施設や病院を転々とすればよい。水分補給のみでよい」と翻意した。

1日500ml程度の点滴をしていたが、低栄養が進行した。やがて血管から点滴が漏れるようになり、両腕、両手、両脚の静脈という静脈に代わるがわる点滴をした。低栄養で手足がむくみ、針が刺せる血管がなくなったため、静脈への点滴(いわゆる血管注射)を断念。水分のみならば皮膚に針を刺す皮下補液とした。皮膚の毛細血管から水分が吸収されるのだが、もとからある心不全なども相まって循環が悪くなり、入れた水分が皮膚にたまって腫れあがるようになった。これ以上の補液に状態を改善させる効果がないとして、点滴を打ち切った。食べられなくなってから約一ヶ月で死亡退院した。

急性期病院と呼ばれる病院でも、家族の理解が得られなければ強制的に退院させるわけにもいかない。しつこいと怒られようとも我々は同じような説明を続ける。生命体としての人間が寿命を迎えたことを理解していただくよう、こうした毎日が続く。

2017年4月30日日曜日

点滴エレジー

● お気軽に「点滴してください」という家族

老衰で食えなくなった老人に家族が望むことで、一番多いのが点滴だと思う。なぜかと問うと、「食べられないのは可哀想だから何かしてあげたい」という。家族の気持ちも分からなくはないが、自分はオススメしない。

なにより点滴はストレスだ。靴下を履いたまま布団に入った時の違和感といえばわかるだろうか。寝ている間に無意識で足でこすって脱いでしまう。老人でも同様に点滴を抜かれてしまうことが多い。管は血管に刺さっている部分以外は、テープやフィルムを貼って皮膚に留めているだけなので、体を動かせば当然抜ける。刺激のない入院生活でただでさえ前後不覚に陥っているのに、夜中に寝ぼけたような状態で、手や足に点滴が刺さっている事を意識もせずに動いたら、点滴の管を引っ掛けて針ごと抜けるのは当たり前。

抜けたら血が出て大変なのでは、とよく聞かれる。まあ、基本的には抜けた針穴にバンソウコウでも貼って何分か圧迫しておけば止まる。血が固まりにくくなる血液疾患などで、凝固因子や血小板がべらぼうに減っていたら大量出血するかもしれないが、そういう人は単なる老衰ではないので、しかるべき診療科の病棟に入院しているだろう。

よく血まみれになるのは、点滴の針が残ったまま、途中で点滴の管どうしの接続が外れているケースだ。点滴の針が入っているのは静脈だ。動脈に点滴することはないわけではないが、老衰の人で動脈に点滴をすることはない。静脈は動脈に比べて圧力が低いとはいえ、血が流れている血管なので血が出てくるのはあたりまえだ。

認知症の老人だと、点滴の管を引きちぎり、針は刺さったまま途中の管が外れ、それをプラプラとぶらさげて徘徊したりする。(引きちぎりと形容したが、正しくは点滴の管同士をつなぐコネクタ部分が外れる)。点滴の管(ラインという)が真っ赤に染まり、徘徊したあとにポタポタと赤い滴が床に連なっているのは、医療業界に身を置くものなら何度も目にする光景だ。ブンブン振り回せば、遠心力で脱水されて血があたり一面に飛びちる。そうでなくても、寝てる間に点滴を自分で外して、翌朝真っ赤になったシーツを発見されることもある。掃除が大変だなーとか思う前に、失血死のリスクが頭に浮かぶわけだが・・。

「点滴してほしい」という家族に応えると、下手すれば失血死で患者を死なせてしまう恐れがあるわけだ。

●血管がない
針を刺せる血管が無くなるという問題もある。老人に無理やり点滴すれば手足がむくむ。自分で飲み食いできなくなった老人は、心臓も悪いし腎機能も落ちている。補液した水分が尿として出ていかないので、点滴すればするほど余計な水分が体にたまる。余計な水は胸水や腹水として体の内部にたまることもあるが、手足に水が溜まりやすい。骨や筋肉に囲まれていないので空間に余裕があるためだ。

横道にそれるが、乳がんの術後にリンパ浮腫で手足がパンパンにはれあがった女性の苦悩を聞いたことがあるだろうか。リンパ管を流れて心臓に戻っていた水分が、手術でリンパ節をとったために行き先を失って手や足が腫れてしまう。水分で手足の重量がふえて、思うように動かせないという。

溜まった水分によって、ただでさえ薄い皮膚が延ばされるうえ、水びたしになっているのでテカテカになる。ぶよぶよになり、指で押せば指の形がしばらくキープされるほどだ。水ようかんと私は説明している。子供の頃に砂場で作った、ぴかぴかの泥だんごにも似ているかもしれない。
点滴する血管を探すために、駆血帯というゴム管などを使う。心臓に帰る血液の流れを止めることで、静脈がパンパンに膨れてくるので、そこをめがけて針を刺すという原理だ。

ところが、ブヨブヨの手足を縛ったところで、血管が浮き上がってくるわけはない。縛ったところから水が絞り出されて凹み、ゴムの痕が一筋つくだけだ。血管を締め上げる効果はない。ヤケクソになって水分でパンパンの手足に針を刺すと、水分が染み出してくるだけで血管に針が刺さることは望めない。


「食べられないのは寿命ってことですよ」

厳しい現実を家族には理解いただくのは難しい。「こんな有様ですが、点滴するんですか?本当にそれでいいんですか?」と説明して意向を聞くのだが、粘り腰の家族もいる。

「じゃあ、血管じゃないところに点滴できないんですか」

その方法もなくはない。皮下補液とか皮下点滴とかいわれるもので、血管ではなくて皮膚に針を刺すものだ。皮下組織といういわゆる皮下脂肪に針を刺す。血管にダイレクトに水分を入れることはできないが、皮下の毛細血管から水分をゆっくりと吸収することはできる。

一見良さそうだが、1日に500mlとか1ℓがせいぜいだ。また、糖分が入った点滴は皮下に炎症や痛みを起こすので普通は使わない。水分をほんのり点滴する程度だが、脱水症の緩和には使えるというわけだ。

ただ、老衰で自分で食事を食わなくなった老人に、点滴をしたからといってどれほどの延命効果が期待できるだろうか。多少の水分のみを与えられ、生きてはいるが日増しにしなびていく肉親をみると、かえって辛いという家族も少なくない。ガリガリに痩せた親を見るのが辛いとして、面会の足が遠のくのはよくある光景だ。

そうはいっても、どんどん弱っていって死亡宣告したあとで、「こんなになるまで無理やり生かしたお前らはひどい」と怒られることもある。人それぞれに考えがあるのだから、何がベストなのかはよくわからないが、家族の気の済むまで老人に医療行為を施し続けるのはいかがかものかと私は思う。

「あきらめたらそこで試合終了だよ」というスラムダンク・安西先生の名言は医療では当てはまらないと思うんだが。

2016年11月11日金曜日

薬で出血

ありふれた薬でも誤嚥して気管支に落ちたりすれば、深刻なダメージが起きて死にいたることもあるというのは、前回のエントリーで述べた。そして誤嚥で死んでもほとんど精査もされずに、「老衰」だの「寿命」だのと、適当に処理されてしまうこともお伝えした。

では誤嚥しないまでも、普通に内服していただけで高齢者が死んでしまう薬はあるのか。

もちろん、ある。

特に循環器系の薬は危ないかもしれない。

たとえばワーファリン。

 エーザイのwebより

 

いわゆる血をサラサラにする薬で、脳梗塞や心房細動などの患者に処方される。今どきはDOACと呼ばれる新しい薬にシフトしてきているが、1錠10円もしないような安い薬だし、まだ広く使われている。
ちなみに、DOACだが結構値が張るので、正直これはおサイフに結構つらいものがある。
リクシアナ錠60mg 錠だと545.6円だ。

だが、心臓に人工弁が埋め込まれた人などはワーファリン一択だったりもするし、薬効が落ちるので納豆は食べないように言われることでも知られている。納豆に含まれるビタミンKが作用するためだ。

このワーファリンだが、薬効の調整が難しいので定期的に外来を受診して採血し、それをみて投与量を上げ下げすることになる。PT-INRなどが目安だ。たとえば1日の投与量が2mgで開始されても、検査結果が治療に適したレンジにないと、3mgとかに増やされたり、1.5mgに減らされたりする。場合によっては微調整が必要となり、1mg錠を半分に割り、それをさらに半分に割るように医師から指示が出たりして、薬局にイラっとされたりもする。


PT-INRだが、教科書的には次のような人だと延びやすいと書いてある。

A) INR延長しやすい患者の特徴:
  高齢者(75歳以上)、ワーファリンの維持量が多い、下痢がある 

(B) INR延長し易い/出血リスク高い患者の既往歴: 

  心不全、腎不全、肝不全、消化管出血、閉塞性黄疸、癌 

(C) INR延長し易い/出血しやすい薬(薬剤による相互作用): 

アスピリン/クロピドグレル、NSAIDs、アミオダロン、ジルチアゼム、 フェノフィブラート、オメプラゾール、プロプラノロール、タモキシフェ ン、トラマドール、オキシコドン、ABX(シプロフロキサシン、エリス ロマイシン、フルコナゾール、イソニアジド、メトロニダゾール、キニ ジン、ST合剤、ボルコナゾール)


これらにあてはまるような人で、さらに出血のリスクの高い老人は要注意だ。


認知症になると面倒がってメシを食わなくなったりする。そんな人でも家族が律儀に薬を欠かさず飲ませていたりする。心房細動のある高齢者だと普通は2~3前後でコントロールするが、メシもろくに食わないでいる人だと、PT-INRは延びる。5とか6、場合によっては10いくつとかまで延びていたりする。これでケガなんかされたら血が止まらない。

メシも食ってないのでフラフラになった老人が、がんばってトイレに行こうとすると、まあ転ぶ。
転んで頭を打ったらどうなるか。頭皮の血管が切れてでっかいタンコブができるならまだマシな方で、頭蓋内出血でも起こしたら目も当てられない。夜にトイレに起きて転び、気合で布団に戻ってそのまま寝たとしたら、いつのまにか脳出血が広がって、脳を圧迫しそのまま亡くなるかもしれない。


ここだけの話、老人にワーファリンを飲ませる量を勝手に増やして、PT-INRが延びるように仕込んだりする家族がいないとも限らない。家族が朝昼晩と薬をセットしていたりするので、勝手に薬の量を増やすこともできるのだ。そうすると、医者から処方された薬は当然早くなくなってしまうが、家族は薬が足りなくなったら、いけしゃーしゃーと外来に来て、処方してもらうのだ。

「薬はおじいちゃんがトイレに流しました」とか「最近ボケて来たので、どっかになくしちゃいました」とか言われたら、医者は「はいはい」と軽く流して処方してしまうのだ。市立病院あたりだと、「そちらが勝手に失くしたのだから健康保険が使えませんよ」というかもしれないが、一粒10円もしない薬を数十粒もらって全額自腹で医療費を払ったところで、値段は知れている。

家で転んで頭を打って意識障害になったとして、救急車を呼んで病院に運びさえすれば、警察が捜査するようなことはまずない。派手な脳出血だと、脳神経外科が手術しても効果が見込めない。神経内科に回されて、血圧の管理などをしたうえで幸いに生き残ったら、どこかの療養病床に転院となるだろう。食事が食えない寝たきり状態になり、胃瘻や中心静脈栄養をしないと決意すれば、手足から点滴で申し訳程度の水分が投与されて、数か月後に衰弱死することになる。

多少脱線したが、食えない老人のワーファリンには注意、なのだ。




2016年11月7日月曜日

錠剤の誤嚥

高齢者は満足に嚥下することができない。とりわけ脳疾患の既往がある人では、嚥下機能が低下しており、誤嚥の頻度が高くなる。

で、高齢者では気管支に異物を詰まらせるというケースが多い。

ボタン電池を飲み込んだという話は聞く。電池が粘膜に張り付いて、電池の包装が溶けて、中に入ったアルカリ性の溶液が漏れて、の粘膜に穴が開いて、縦隔炎をきたして死ぬ例などもまあある。認知症の老人がボタン電池を使うような小さな器具を必要とするのか、と考えていくと、身の回りから撤去すればよいので、まあこれは避けられるかもしれない。

面倒なのは、老人が飲んでいる薬を誤嚥した時だ。

律儀な老人は、せっせと薬を飲む。嚥下機能が落ちたことも気が付かないで飲んでいたりする。
家族も家族で、「おじいちゃん、薬の時間よ」とせっせと飲ませたりする。老人も期待に応えようとがんばって飲んで誤嚥する。処方した医者側にも問題はないのかといわれればそのとおりかもしれないが、診る患者全員に嚥下機能の評価なんてとても手が回らない。

水に溶けないカプセルが気管支に落ちた場合には、内視鏡で取ればよいのでまだ救いがある。
(気管支学.2011;33:431-434など)

一方、素早い対応が必要なケースもある。老人は「ふらつく」だの「めまいがする」だので病院を受診し、貧血と判明して鉄を含む薬が処方されていることは多い。

これを誤嚥すると、特に著しい粘膜障害をきたす。電池でなくても、粘膜が腐食し、重症肺炎の原因となる。重篤な場合は呼吸不全や大量喀血を来たして死ぬ。 すぐに気管支鏡を突っ込んで摘出するべきだが、認知症が入っていると何がどうなったのかがわからないうちに時間が経過し、死ぬこともあろう。引用した論文だと、診断がついて治療されたケースしか載っていないが、なんだかわからないままに死んでしまい、「謎の肺炎」として闇に埋もれている症例も相当数あるんじゃないだろうか。

===たとえばこんなケース==============
◆病棟で
老人病院の夜。当直医が「先生!〇〇さんが低酸素血症です」とコールを受けた。
聴診器を当ててみるとヒューヒューと音がする。異物がつまった気管支とは知らずに、「wheezesだから喘息発作かな。じゃあ点滴と吸入で」と眠い目でオーダーして、当直医は寝床に戻った。
バイトの当直医は申し送りもそこそこに、翌朝、足早に大学病院に戻った。
どんどん呼吸状態が悪化して、マスクで酸素15Lを要する状態になった。さすがにこれ以上は危険と考えて家族に連絡したが、「もう、うちの爺さんは年なんで、今さら救命センターに運んだりしなくてよいです。静かに看取ってください」と言われ、そのまま他界。
==========================

ちなみに気管支異物を疑うような症状は「咳」「発熱」「喘鳴」「胸痛」など。

老人はありとあらゆる症状が出にくいので、診断が遅れる原因となる。誤嚥でも例外ではない。
胸部レントゲン写真で異物が映れば助かるが、影がばっちり映るような異物は多くない。異物が気道を閉塞して生じる無気肺とか肺炎像、異物のせいで吸い込んだ空気が吐き出せなくなる(=空気が肺にたまっている)air trappingといった所見で間接的に見抜くほかない。






2016年10月1日土曜日

石鹸の点滴

横浜の病院で、点滴に逆性石鹸が混入されて患者が亡くなった、というニュースが連日流れている。私はテレビは見る暇がないので、もっぱらネットだが。

逆性石鹸って何よ、って話はこちらを見ていただこう。



「タンパク質を変性させる作用がある」ので細菌のみならず、人体にも有害なわけだ。

あまりに生々しく殺人の手口を報道しているので、最近は「界面活性剤」云々というふうにトーンが変わっていたが、先日は商品名がそのものずばり出てしまった。


ヂアミトール

有効成分 : ベンザルコニウム塩化物
ちなみに、日本で市販されている逆性石鹸のラインナップがこれ。軽くググると出てくる。

報道されている病院は、寝たきり老人がほとんどのようだから、手術なんかする施設じゃないだろう。だから、病棟にあったというのは日常的な手洗い用の濃度なのでしょう。

手洗い用だと0.05%とか0.1%の濃度になる。ちょうどいい濃度の製品だと、手押しポンプが付いていてぷしゅぷしゅ出して使うのだが、それはそれで結構お値段が張るんだそうだ。自分がバイトしたことのある老人病院だと、看護助手さんがせっせと50%溶液を薄めて入れ物に小分けしていたのを思い出す。コストを切り詰めないと経営が回らないんだなあ、と思ったものだ。

犯人ならば、濃度が高いほど殺傷力が高まるんじゃないか、ぐらいのことは誰でも考えるので、もしかしたら、50%原液を点滴に混ぜられてしまったんじゃないだろうか。

メーカーの発表だと、マウスだと静注でのLD50が10mg/kgだという。

ウィキペデイアより「半数致死量(はんすうちしりょう、median lethal dose)とは、物質の急性毒性の指標、致死量の一種としてしばしば使われる数値で、投与した動物の半数が死亡する用量をいう。"Lethal Dose, 50%"を略してLD50と書く」



種差などがあるので、そのまま人間に当てはめるのは科学的ではないが、仮にこの数字を使うとして、寝たきり高齢者で体重40kgだとして、400mgがLD50。

アメリカなんかでの薬物による死刑では致死量の10倍ぐらいを投与するそうだから、犯人ならば、10倍として4000mgは入れるだろう。50%液だから成分量が500mg/ml。ってことはボトルから10mlぐらいをシリンジで吸って、そのまま点滴に混ぜておいたのかもしれない。

お値段が1.56円/mlというから、10ml使っても20円しないんだな。

いわゆるニンニク注射ですら匂いを感じるわけで、こんな臭い消毒薬を点滴されたなら、あの強烈な病院臭に苦しみながら亡くなっていったのだろう。

ちなみに50%液の使い方はこんな感じ。薄めないで人に投与する、しかも点滴に混ぜるだなんて常軌を逸しているとしか思われない。
効能・効果用法・用量本品希釈倍数
手指・皮膚の消毒通常石けんで十分に洗浄し、水で石けん分を十分に洗い落とした後、ベンザルコニウム塩化物0.05〜0.1%溶液に浸して洗い、滅菌ガーゼあるいは布片で清拭する。術前の手洗の場合には、5〜10分間ブラッシングする。500〜1000倍
手術部位
(手術野)の皮膚の消毒
手術前局所皮膚面をベンザルコニウム塩化物0.1%溶液で約5分間洗い、その後ベンザルコニウム塩化物0.2%溶液を塗布する。0.1%:500倍
0.2%:250倍
手術部位
(手術野)の粘膜の消毒、皮膚・粘膜の創傷部位の消毒
ベンザルコニウム塩化物0.01〜0.025%溶液を用いる。2000〜5000倍
感染皮膚面の消毒ベンザルコニウム塩化物0.01%溶液を用いる。5000倍
医療機器の消毒ベンザルコニウム塩化物0.1%溶液に10分間浸漬するか、または厳密に消毒する際は、器具を予め2%炭酸ナトリウム水溶液で洗い、その後ベンザルコニウム塩化物0.1%溶液中で15分間煮沸する。500倍
手術室・病室・家具・器具・物品などの消毒ベンザルコニウム塩化物0.05〜0.2%溶液を布片で塗布・清拭するか、または噴霧する。250〜1000倍
腟洗浄ベンザルコニウム塩化物0.02〜0.05%溶液を用いる。1000〜2500倍
結膜嚢の洗浄・消毒ベンザルコニウム塩化物0.01〜0.05%溶液を用いる。1000〜5000倍





2016年9月25日日曜日

死の床で見る心電図

医者から「今夜がヤマでしょう」と言われて、病室に詰めている家族。

ついに本人の息も絶え絶えで顎をしゃくりあげるような呼吸になっている。 呼吸も間延びして今にも心臓が止まりそうだ、というシチュエーション。

もう家族は動転し、患者さんよりもベッドわきのモニターに目が釘付けだったりする。

そんな時に目に映る心電図の波形というのはどんなものなのか。

ご家族(ご遺族)に了承をいただいたので、撮影された動画を掲載する。

大事な人といよいよお別れという場面を追体験していただき、思いを巡らせていただければと思う。


2015年12月3日木曜日

酸素で枯らす

◆酸素編

(1)概要

大量の酸素が必要な状態の人に対し、酸素投与を止める。主要な臓器への酸素供給が低下するため、臓器の機能不全をきたし、死に至る。

(2)事前準備

◇モニターを外してもらう

患者は指先に洗濯バサミのような機械を付けられていることがある。酸素飽和度、通称サチュレーションのモニターだ。長いのでこの項では、単にモニターと呼ぶ。これを介して、病室にいる患者からナースステーションのディスプレイに情報が伝送され、看護師が監視している。

「じゃあ、誰も画面を見ていない時ならやり放題じゃないか」というのは甘い。ボケーッとモニター画面を見続けていられるほど医療現場はヒマではないので、異常があると看護師が携帯しているPHSが鳴るなどの仕掛けがしてあり、異常があれば看護師が飛んでくる。つまりモニターが患者についている間は酸素をオフにするとバレてしまうわけだ。

ならば、モニターを外してもらうにはどうするか。
異変を早く察知するためのモニターは、処置をしなくてよいなら必要ない。
先に述べたとおり、「急変しても何もしないで」という意思表示をしておけばよい。
一応、医療現場での意思決定の責任は医者にある。受け持ちの看護師に伝えても医者に伝わらないこともあるので、医者を捕まえてアピールしておくか、文書でも作って渡しておけばベストだ。

(3)手法

◇患者にくっついた装置には手を加えない

鼻に刺さっている「鼻カヌラ(カニューレ)」、口や鼻を覆っているおわん型の「マスク」などは決して外してはいけない。

「仕事」を完遂して患者が死亡すれば、看護師や医師が病室にやってくる。その時に患者に装着されているはずの装置が外されていると、大変だ。病院にもよるのだが、「事件か?事故か?」といって警察に届け出がなされてしまうことがある。捜査が始まっては面倒だ。

◇酸素のツマミをひねる

酸素を投与する装置はさまざまなタイプがある。人工呼吸器とかNPPV、ネーザルハイフローといった機械の操作は慣れていないと難しいし、酸素流量の記録が残ることも多いのでむやみに手を出すと墓穴を掘る。ここでは、操作が簡単なシンプルな装置にしぼって説明する。

このやり方だと酸素投与を止めたあとで、つまみをひねって酸素流量を元に戻してさえおけば、なんにも証拠が残らない。これが最大のメリットだ。

壁のパネルに管が刺さっているのを見たことがあるだろう。緑色が酸素の配管だ。古典的なタイプでは、透明な筒の中に玉が浮いている。

その下にあるツマミをひねって玉を一番下に落とすと、酸素の流れは止まり、酸素供給がゼロになる。止める前に、酸素がどれぐらい流れていたかを覚えておこう。「仕事」を完遂した後で、カムフラージュのために玉を元の位置に戻さなければならないからだ。もし患者が急変した時に酸素が止まっていたのなら、医療事故として警察沙汰になってしまう。

◇酸素中止が効果的な人


 酸素を流す量によって、患者に装着されているデバイスは異なる。左右の鼻の穴にささっているタイプを鼻カニューレ(鼻カヌラと呼ぶ人もいる)というが、これだと大した流量ではない。せいぜい5L/分程度なので、酸素をゼロにしてもたちまちクリティカルなダメージになることは少ないだろう。

一方、鼻と口を覆うタイプのマスクでは10L/分ぐらい流せる。さらに顎のところに袋がついたリザーバー付きマスクだと、15L/分まではいける。こうしたマスクが乗っている患者をみたら、酸素の量を見てみよう。ふた桁も流しているようなら、一挙に酸素をオフにすれば効果てきめんだ。


◇酸素を止めたらどうなる

モニターがついていれば、酸素飽和度(サチュレーション)がみるみる下がっていくのがわかるだろう。酸素が入ってこなければ、心臓や脳といった重要臓器への酸素供給が当然落ちていく。酸素の消費量が著しいこうした臓器はたちまち機能が低下し、やがて機能停止に至る。

もともと高流量の酸素が投与されている患者では、すでに息も絶え絶えなので、声も出せないことが多い。「苦しい!」とか「やめてくれ!」とか断末魔の叫びも出ないだろう。声は出せなくとも、苦しさに抗おうとしてアドレナリンなどが一気に放出される。このため、一過性に脈拍数が増えたり呼吸数が増えるが、逆に酸素の消費が増えて、残り少ない酸素を使い果たしてしまい、「酸欠」状態に拍車がかかる。

 酸素が足りなくなると、先に述べたような下顎呼吸が起こり死に至る。