2015年9月19日土曜日

ワタミの介護が厳しい理由

国が猛プッシュしているのが、 「住み慣れた家で最期まで」という在宅医療。

たしかに、患者の家と医療機関との距離を物理的に遠ざけておけば、ちょっとしたことで医療費が使われなくて済むのかもしれない。となると、弱った老人が家にいるとお世話になるのが介護だが、そのあたりもなかなか複雑だ。


●急性期病院の日常風景

◇帰ってきてほしくない家族、帰りたくない患者


入院して治療が済んで、もう帰るだけになった患者。帰る前にいろいろとリクエストがある。
自宅に帰ればほったらかされることを知ってか知らずか、帰る間際に医療従事者に甘えているようにすら映る。

「せっかく入院したついでだから、昔っから頭が痛いんでCTとって」とか、「そういえば、ぎっくり腰で痛いからMRI撮って帰るから」と勝手に決めたり、ガンコな老人だと言い出したら止まらない。丁寧にこちらが話を聞いていても、「俺の言うことがきけないなら、もしなにかあったら医療ミスで訴えてやる」とか言い始める。99%何もないのだが・・。その先は「県議会議員にうったえてやるからとか」とヒートアップしたりして、手に負えない。


患者だけではなくて家族も同様だ。

高齢者が家にいる間は家族もそれなりにお世話していたが、病気やケガでいったん入院して、楽を知ってしまうと、えてして家族はもう過去のような生活には戻りたいと思わないものだ。家に帰って来られると困るので、「おじいちゃんは、胸が苦しいと言ってました」とか「手がしびれるので」とかあることないこと言って、入院を引き延ばす工作に精を出す。

こっちも治ったなら早く帰ってもらいたいので、それは別の機会に調べるように説得する。DPCという保険制度上、入院した病気以外をだらだら診ることはできないのである。これは医者ならだれでも持っている技術。


◇退院の話を切り出すと

前フリはさておいて、核心となる退院の話をすると、だいたいこんな反応だ。

「うちではちょっと面倒みられる人がいないもので」

「長期間居られる病院に転院させてください」

「施設が空くまでいさせてもらいますから」

「入院した時よりも動けなくなっているので、リハビリをやって立って歩けるようにしてください」
 (来たときからすでに寝たきり。関節が拘縮していて、リハビリの効果がそこまで見込めない)

「在宅医療はすぐに対応してもらえないじゃないですか。病院の方が安心です」


などと自分の家に戻ってくるのを懸命にブロックする有様。家族が何人も一緒に来て、2枚ブロック、3枚ブロックとなることもある。だいたいは同じようなコースでの攻撃なので、こちらもだいたい同じような角度でスパイクを打って得点を決めて、退院に持ち込む。

まあ困るのは、施設とか転院先の病院のベッド空くまでは無下に追い出すわけにもいかないことだ。それも厚生労働省様のお達しで決まっているのだ。治療するでもなく、ただ施設の空きを待つだけの患者がダラダラと在院することになり、こうして救急病院の貴重なベッドは埋まっていく。


●入院有利な保険診療が在宅を阻む

僕が言いたいのは、保険診療のせいでオトクに入院できてしまうことが、在宅医療の普及を阻んでいるんじゃないかということだ。転院待ちの人でもその気になれば、いつまでも入院できてしまう。一泊入院すると何十万円もとるようなアメリカの医療制度だったら、まあありえないだろう。早く帰らないと破産してしまうのだから。


老人の場合だと、あらゆる優遇措置を駆使すると、激安で入院できる。
レセプトをチェックしていると、10万点(100万円)以上の医療費を使いながらも、自己負担2万円とかいう人がパラパラいて驚く。差額は当然、若い人や現役世代が払っているわけだが、家賃4万、食費5万、光熱水料 2万とか積み上げていくよりも、入院していた方が安いんだからそりゃあ家なんか帰りたくはないだろう。医療費払っても、年金はしっかり手元に入ってくるんだから。

家族もはじめての入院だと、入院費用を気にしておっかなびっくりだが、支払い金額が異様に安いことを知ってから態度がデカくなる。「こんなもんなら、いつまでもおいてもらおうかしら」 となるわけだ。医療費と介護保険を通算する制度もあるので、ますます負担額は減る。



●つぶれそうで困っているというワタミの介護

ワタミさんの有料老人ホームの料金はこんな感じ。
①入居時にかかる入居一時金(前払金)
  • 入居一時金(前払金)プラン:終身にわたる利用権の費用で約300万~1,300万円前後。入居時にお支払いいただき、その後は必要ありません。入居一時金には、償却期間が定められており、償却期間が終了する前に退去された場合に未償却部分が返還されるようになっております。償却期間や償却方法はホームよって異なります。
  • 月払いプラン:入居一時金(前払金)は必要ありません。
②月々の月額利用料
  • 入居一時金(前払金)プラン:お食事代込みで約178,000円~238,000円前後です。
  • 月払いプラン:上記月額利用料に加えて、家賃相当額が必要になります。
③介護保険の1割負担額
  • 介護度、市区町村によって違いますが、月々約6,000円~27,000円前後です。
④その他
  • おむつ代、日用品費、水道光熱費などは実費をご負担いただきます。
普通の家庭が、老人のために月々18万から24万も出せるだろうか。
僕が勤める病院がある地域だと、そんなリッチマンはほとんどいないので、有料老人ホームはいつでも空きがある。ワタミが赤字になるのもうなづける。

じゃあ老人は何処にいるのかと言えば、病院にゴネて施設の空きが出るまでいつまでもいるわけだ。そしてその料金は1~2万。本当にカネがなければ、市役所に泣きついて生活保護になるという道もある。そうなると、弱っている老人ならば養護老人ホームなどがほぼ無料であてがわれることになる。民間企業の競争力とか優位性などないに等しい。

税金払わなくていいような社会福祉法人が役所から補助金受けてつくったような施設と、銀行から金借りてなんとか利益を出そうとしている民間企業とでは、同じ土俵では戦えないのだ。

日本人はみんなが言うほど金持ちでもないし、言葉は悪いが「もう死ぬだけ」の老人に対して、家族が大枚はたいてくれるとも思わない方がいい。



2015年9月6日日曜日

誤嚥、肺炎、ステルベン

夏に老人がかかる病気の代表選手といえば熱中症。言っていることがめちゃくちゃだったりすると、もともと認知症なのか、脳がオーバーヒートしているせいなのかはわからないこともしばしば。

どうやら認知症になると、暑い寒いといった感覚すらも鈍感になるようだ。「蚊に刺されるから」と真夏に窓を閉め切ったり、「寒い寒い」と布団を体に巻き付けている高齢者もみたことがある。「盗聴されるから」とか「毒ガス攻撃をされるから」とかと必死の形相で訴える人は、別な病気があるようなのでその手の病院にご紹介したりもする。


さて、9月にもなると涼しくなってくるので、夏の風物詩の熱中症もなりを潜めて、いつもの病気が目立つようになる。

そう、誤嚥性肺炎だ。

誤嚥性肺炎は人間の最終形態というか、ラスボスである。これに勝つことは残念ながら不可能だ。古くから「肺炎は老人の友」というそうだが、人の死亡率はどんな医療行為を行っても100%という現実は変えられない。だから医療なんてクソゲーだ、と喝破する人もいる。まあ、その手で有名な「時空の旅人」のように、どんなにがんばってみても、結局エンディングは残念な結末という意味では、なにをやっても虚しい面はあるけれども、夢やロマンだけではご飯が食べられないのはぼくら医療従事者も一緒。


例えば、よくあるシナリオをみてみよう。

介護施設入所中
    ↓
認知症がひどくなった
    ↓
自力で食べなくなった
    ↓
食事介助が必要になった。
    ↓
食事でむせるようになった
    ↓
 誤嚥性肺炎 発生!
    ↓
救急病院に搬送
    ↓
点滴・抗菌薬・絶食・リハビリ
    ↓
ある程度回復するが体力低下
    ↓
施設に戻るが再び誤嚥
    ↓
治療したが嚥下機能は低下したまま
    ↓
いよいよ食べられなくなった
    ↓
食べられないので介護施設では面倒見切れない
    ↓
 胃瘻にしますか ・・・ いいえ
    ↓
転院先探し
    ↓
みつかりません。
    ↓
自宅に連れて行きますか・・いいえ。老人介護で共倒れはまっぴら
    ↓
行き先がありません。
    ↓
コマンド
 ①国や役所に電凸する
 ②選挙でK党に投票する
 ③コネを使って入院を求める
 ④ドクターキリコに消してもらう
 ⑤入院中の病院からの電話に出ない
  ⑥担当医を恫喝する
  
実際、行き場のない老人の誤嚥性肺炎だと、医療現場がどうにかできる部分はほとんどない。
治療がとっくに終わった人は、家に帰れればいいのだけれど、そうもいかない。家に連れて帰ったら家族が面倒を見なければいけないから、それはそれで家族には大きな負担だとは思う。だが、入院していれば社会がかぶるコストでもあり、老人は邪魔者よばわりされるゆえんである。

檀家がいなくなったお寺が増えていると聞く。本堂とかに、もう治療もしなくていいっていう人たちを寝かせておいてもいいんじゃないかとすら思う。どこかのお寺で引き受けてくれるのだったら往診にいってもいい。救急車がじゃんじゃん来る病院の医者は、声に出さなくても、多かれ少なかれそんな気持ちで行き場のない患者さんを案じているものだと思う。

結局治らない誤嚥性肺炎。
どうせ避けられない未来なら、笑い飛ばしてしまえという発想も成り立つ。
昔、大学の学園祭で聞いたラップ。

「誤嚥、肺炎、ステルベン*、ちぇきら!」

*sterben(独)より。死亡を意味する医療界のスラング)