2016年11月11日金曜日

薬で出血

ありふれた薬でも誤嚥して気管支に落ちたりすれば、深刻なダメージが起きて死にいたることもあるというのは、前回のエントリーで述べた。そして誤嚥で死んでもほとんど精査もされずに、「老衰」だの「寿命」だのと、適当に処理されてしまうこともお伝えした。

では誤嚥しないまでも、普通に内服していただけで高齢者が死んでしまう薬はあるのか。

もちろん、ある。

特に循環器系の薬は危ないかもしれない。

たとえばワーファリン。

 エーザイのwebより

 

いわゆる血をサラサラにする薬で、脳梗塞や心房細動などの患者に処方される。今どきはDOACと呼ばれる新しい薬にシフトしてきているが、1錠10円もしないような安い薬だし、まだ広く使われている。
ちなみに、DOACだが結構値が張るので、正直これはおサイフに結構つらいものがある。
リクシアナ錠60mg 錠だと545.6円だ。

だが、心臓に人工弁が埋め込まれた人などはワーファリン一択だったりもするし、薬効が落ちるので納豆は食べないように言われることでも知られている。納豆に含まれるビタミンKが作用するためだ。

このワーファリンだが、薬効の調整が難しいので定期的に外来を受診して採血し、それをみて投与量を上げ下げすることになる。PT-INRなどが目安だ。たとえば1日の投与量が2mgで開始されても、検査結果が治療に適したレンジにないと、3mgとかに増やされたり、1.5mgに減らされたりする。場合によっては微調整が必要となり、1mg錠を半分に割り、それをさらに半分に割るように医師から指示が出たりして、薬局にイラっとされたりもする。


PT-INRだが、教科書的には次のような人だと延びやすいと書いてある。

A) INR延長しやすい患者の特徴:
  高齢者(75歳以上)、ワーファリンの維持量が多い、下痢がある 

(B) INR延長し易い/出血リスク高い患者の既往歴: 

  心不全、腎不全、肝不全、消化管出血、閉塞性黄疸、癌 

(C) INR延長し易い/出血しやすい薬(薬剤による相互作用): 

アスピリン/クロピドグレル、NSAIDs、アミオダロン、ジルチアゼム、 フェノフィブラート、オメプラゾール、プロプラノロール、タモキシフェ ン、トラマドール、オキシコドン、ABX(シプロフロキサシン、エリス ロマイシン、フルコナゾール、イソニアジド、メトロニダゾール、キニ ジン、ST合剤、ボルコナゾール)


これらにあてはまるような人で、さらに出血のリスクの高い老人は要注意だ。


認知症になると面倒がってメシを食わなくなったりする。そんな人でも家族が律儀に薬を欠かさず飲ませていたりする。心房細動のある高齢者だと普通は2~3前後でコントロールするが、メシもろくに食わないでいる人だと、PT-INRは延びる。5とか6、場合によっては10いくつとかまで延びていたりする。これでケガなんかされたら血が止まらない。

メシも食ってないのでフラフラになった老人が、がんばってトイレに行こうとすると、まあ転ぶ。
転んで頭を打ったらどうなるか。頭皮の血管が切れてでっかいタンコブができるならまだマシな方で、頭蓋内出血でも起こしたら目も当てられない。夜にトイレに起きて転び、気合で布団に戻ってそのまま寝たとしたら、いつのまにか脳出血が広がって、脳を圧迫しそのまま亡くなるかもしれない。


ここだけの話、老人にワーファリンを飲ませる量を勝手に増やして、PT-INRが延びるように仕込んだりする家族がいないとも限らない。家族が朝昼晩と薬をセットしていたりするので、勝手に薬の量を増やすこともできるのだ。そうすると、医者から処方された薬は当然早くなくなってしまうが、家族は薬が足りなくなったら、いけしゃーしゃーと外来に来て、処方してもらうのだ。

「薬はおじいちゃんがトイレに流しました」とか「最近ボケて来たので、どっかになくしちゃいました」とか言われたら、医者は「はいはい」と軽く流して処方してしまうのだ。市立病院あたりだと、「そちらが勝手に失くしたのだから健康保険が使えませんよ」というかもしれないが、一粒10円もしない薬を数十粒もらって全額自腹で医療費を払ったところで、値段は知れている。

家で転んで頭を打って意識障害になったとして、救急車を呼んで病院に運びさえすれば、警察が捜査するようなことはまずない。派手な脳出血だと、脳神経外科が手術しても効果が見込めない。神経内科に回されて、血圧の管理などをしたうえで幸いに生き残ったら、どこかの療養病床に転院となるだろう。食事が食えない寝たきり状態になり、胃瘻や中心静脈栄養をしないと決意すれば、手足から点滴で申し訳程度の水分が投与されて、数か月後に衰弱死することになる。

多少脱線したが、食えない老人のワーファリンには注意、なのだ。




2016年11月7日月曜日

錠剤の誤嚥

高齢者は満足に嚥下することができない。とりわけ脳疾患の既往がある人では、嚥下機能が低下しており、誤嚥の頻度が高くなる。

で、高齢者では気管支に異物を詰まらせるというケースが多い。

ボタン電池を飲み込んだという話は聞く。電池が粘膜に張り付いて、電池の包装が溶けて、中に入ったアルカリ性の溶液が漏れて、の粘膜に穴が開いて、縦隔炎をきたして死ぬ例などもまあある。認知症の老人がボタン電池を使うような小さな器具を必要とするのか、と考えていくと、身の回りから撤去すればよいので、まあこれは避けられるかもしれない。

面倒なのは、老人が飲んでいる薬を誤嚥した時だ。

律儀な老人は、せっせと薬を飲む。嚥下機能が落ちたことも気が付かないで飲んでいたりする。
家族も家族で、「おじいちゃん、薬の時間よ」とせっせと飲ませたりする。老人も期待に応えようとがんばって飲んで誤嚥する。処方した医者側にも問題はないのかといわれればそのとおりかもしれないが、診る患者全員に嚥下機能の評価なんてとても手が回らない。

水に溶けないカプセルが気管支に落ちた場合には、内視鏡で取ればよいのでまだ救いがある。
(気管支学.2011;33:431-434など)

一方、素早い対応が必要なケースもある。老人は「ふらつく」だの「めまいがする」だので病院を受診し、貧血と判明して鉄を含む薬が処方されていることは多い。

これを誤嚥すると、特に著しい粘膜障害をきたす。電池でなくても、粘膜が腐食し、重症肺炎の原因となる。重篤な場合は呼吸不全や大量喀血を来たして死ぬ。 すぐに気管支鏡を突っ込んで摘出するべきだが、認知症が入っていると何がどうなったのかがわからないうちに時間が経過し、死ぬこともあろう。引用した論文だと、診断がついて治療されたケースしか載っていないが、なんだかわからないままに死んでしまい、「謎の肺炎」として闇に埋もれている症例も相当数あるんじゃないだろうか。

===たとえばこんなケース==============
◆病棟で
老人病院の夜。当直医が「先生!〇〇さんが低酸素血症です」とコールを受けた。
聴診器を当ててみるとヒューヒューと音がする。異物がつまった気管支とは知らずに、「wheezesだから喘息発作かな。じゃあ点滴と吸入で」と眠い目でオーダーして、当直医は寝床に戻った。
バイトの当直医は申し送りもそこそこに、翌朝、足早に大学病院に戻った。
どんどん呼吸状態が悪化して、マスクで酸素15Lを要する状態になった。さすがにこれ以上は危険と考えて家族に連絡したが、「もう、うちの爺さんは年なんで、今さら救命センターに運んだりしなくてよいです。静かに看取ってください」と言われ、そのまま他界。
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ちなみに気管支異物を疑うような症状は「咳」「発熱」「喘鳴」「胸痛」など。

老人はありとあらゆる症状が出にくいので、診断が遅れる原因となる。誤嚥でも例外ではない。
胸部レントゲン写真で異物が映れば助かるが、影がばっちり映るような異物は多くない。異物が気道を閉塞して生じる無気肺とか肺炎像、異物のせいで吸い込んだ空気が吐き出せなくなる(=空気が肺にたまっている)air trappingといった所見で間接的に見抜くほかない。