2018年7月14日土曜日

鼻からしょう油

岩手県の保育所で食塩を注入して、食塩中毒で死なせてしまった事例があったのをご記憶でしょうか。

食塩4.5~5g摂取か 1歳児中毒死、ほぼ致死量相当
2017年7月20日06時56分 朝日新聞デジタル より引用

認可外保育施設で2015年8月、預かり保育中だった●ちゃん(当時1)が食塩中毒で死亡した事件で、病院に搬送された●ちゃんの体内の食塩摂取量が約4・5~5グラムに相当することが、捜査関係者への取材でわかった。専門家によると1歳児で小さじ1杯分(5~6グラム)の食塩を摂取すると死に至る恐れがあるといい、●ちゃんはほぼ致死量相当の食塩を摂取させられた疑いがある。
捜査関係者によると、●ちゃんの食塩摂取量は血中濃度から測定した。事件当時、施設内には●ちゃんと×容疑者の2人だけで、×容疑者は乳幼児用のイオン飲料を容器に入れ、食塩を混ぜて、スプーンで●ちゃんに与えたとみられる。●ちゃんの背中には多量の食塩が付着していたといい、●ちゃんが食塩を与えられ、嘔吐(おうと)した可能性があるという。

ーーーー
なんともお粗末な知識が不幸な結果を招きました。こんな程度の認識で保育所を営業して、大事なだいじなお子さんを預かっていたかと思うと哀しくなります。自分の子供が小さいころには、母がおらず頼りない父(=自分)の代わりに保育士さんが手取り足取り子育てのコツを教えてくれて、本当にありがたかっただけに信じられません。

さて、本ブログは高齢者医療を扱っているので、そっちにもどします。

日本医事新報といえば、たいていの医局に置いてあるためになる雑誌です。いろいろ面白い記事がありますが、とくに注目するのは「良縁求む」のコーナー、という医者は多いです。自分も結婚に失敗して今はわびしい立場なので、毎号しっかりチェックしています。

さて、そんな医事新報ですが、2018年7月7日号にも食塩中毒にまつわる質疑応答がありました。胃瘻からの経管栄養に追加する食塩についてです。

少し前までは食べなくなった老人の栄養補給と言えば、リポビタンDもとい、胃瘻というのが定番でした。今は胃瘻は保険の適応が厳しくなったり、イメージが悪くなったために作るケースが大分減りました。そのかわりに、鼻の穴から長い管を突っ込んで、栄養剤を胃にダイレクトに流し込むという経鼻栄養が静かに流行しています。インフルエンザの検査を体験すればわかりますが、鼻から物をつっこまれることの苦痛といったらかなりのものです。おぇぇええええと押し寄せる嘔吐反射。管が入っている限りはあれが続くのですが。

栄養剤だけだと塩分が足りないので補充する必要があります。
管から高濃度の食塩水を突っ込むとどうなるかも医事新報に書いてました。

・食塩1g+水20ml into 空腸瘻 → 限局性小腸炎(静脈経腸栄養2009;24(3)
・食塩4g+水20ml into 胃瘻  → 胃出血 (日臨外誌.2007;68(7))

高浸透圧で消化管の粘膜が傷害されるわけですね。
生理食塩液は0.9%ですが、食塩4g/水20mlはざっと16%で、濃口しょう油と同じです。
かつて戦争に行きたくない若者が、徴兵検査で落ちるために、しょう油を一気飲みしたという伝説は聞きますが、とても飲めたもんじゃないでしょう。死ぬか生きるかがかかった精神状況でないと無理です。

点滴でヂアミトールを注入されるのも怖いですが、経鼻胃管(俗に 「はなくだ」)が入っていれば、家庭にあるもので殺されてしまうこともあり得ます。

塩化ナトリウムのLD50が体重1kgあたり0.5g~5gとされていますから、寝たきり老人で40kgぐらいに痩せてしまった人だと20~200gぐらいが致死量です。

濃口しょう油 カップ1/2

みたいな殺人レシピもあり得るわけですね。
最後の晩餐が腹いっぱいの濃口しょう油なんて、ホントやめてほしいです。

在宅医療ってのは、一歩間違えれば、恨まれている人から命を狙われる恐れもあるのかもしれません。医療費をケチろうという国からすればいいのかもしれませんが、ちょっと枕を高くして休めない気もします。

日本でもできる「安楽死」「尊厳死」について、医者として質問に答えます。
聞きたい情報があればこちらからお寄せ下さい。

https://docs.google.com/forms/d/1nwfWK0bg3ILwCWzdYpF1eu4MjgRpuTn5Szb6-uMQo4s

0 件のコメント:

コメントを投稿