2018年8月10日金曜日

「入院したら最後の●●病院」

2018年4月30日づけで、ブログにコメントを頂いておりました。ありがとうございます。
ある病院に入院したら、不本意な形で家族を失ったことが切々と書かれています。
非常に長文でした。最初はですます調だった文章が、しだいに生々しい感情がほとばしる強い文体になります。

ただ、これはよくある話ですので、取り上げたいと思います。別に私は全国の医者代表ってわけでもないですし、その病院を擁護するつもりも糾弾するつもりもありません。 一個人として好きに書かせていただきます。

●経過

投稿者の身内の高齢者が、インフルエンザ後に「肺炎」と診断されて入院しました。
受診した理由は書かれておらずわかりません。年齢も基礎疾患も不明です。

ただ、もともと元気な方らしく、「まだまだ普通のものも食べられてたし、歩くこともできていた」程度のADLで、普段から「ストレッチや散歩、体操等」のほか、誤嚥しないよう食事に気をつけており、いつも「120歳まで生きて新聞に載ろうね」と話すほどの健康意識の持ち主でした。家族としても、入院の理由が納得いくものではなかったようです。

そんな方が、入院で「医療的な拷問」を受け続けた結果、亡くなったというのです。「元気でまだまだ生きる気力のある人をちゃんと手を尽くしたのではなく、故意にさんざん傷つけ弱らせ弱らせ亡くなるようにされた」と。

病院のみならず、市役所の対応にも不満を訴えます。入院中に要介護認定を受けることとなり、市から認定調査員が来ました。「今の季節は?」と質問され、4月なのに暑い日であったので、本人は「夏」と答えました。そうした木で鼻をくくった対応で、書類を仕上げて出ていった市職員の態度も屈辱的だといいます。

●誤診?

投稿者は肺炎という診断にも懐疑的です。
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おかしいなと思ったがインフルエンザは治ってしまったし、CTの影は上のほうは全く綺麗なものだったのにだから全く延命なんて段階じゃなかったし、
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呼吸器専門医の資格を持つ私としては、肺炎を侮るなということにつきます。
素人目には下肺野だけに異常があったとしても、たちまち悪化することもしばしばです。

<高齢者の死因(平成28年)>
第一位:悪性新生物
第二位:心疾患
第三位:肺炎
第四位:脳血管疾患
第五位:老衰
第六位:不慮の事故

肺炎が堂々3位にランクインです。

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病院の治療に見せかけた殺人行為、入院したら最後の●●病院。
最初にお年寄りというだけで全部一緒にしてすぐに緊急時の延命治療の話である。
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朝、にこにこ家族と面会していた高齢者が、夕方になって呼吸状態がみるみる悪化して今際の際をさまよう、ってことは経験しないとわからないかと思います。緊急時には挿管して人工呼吸管理をするほかないのですが、医者の判断で処置した後で、「こんなこと頼んでない」とか「家族の総意ではない」とか言われると我々も頭を抱えます。こういうわけで、入院したら最初に今後どうするのかを聞く病院も多いでしょう。

たしかに信頼関係もできてない中で、「急変時の対応はどうします?」と医者にいわれたら、「貴様、うちの家族を治す気ねえだろ!」と憤るのもわかりますけどね。

ここからボタンの掛け違いが始まったわけですね。
書かれている「拷問」についてコメントしていきます。

●喀痰吸引

肺炎だと痰が出ます。高齢者で心不全を合併しているとさらに痰が増えます。通常は吸引して気道を開通させます。

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部屋にいると「いきなり痰を取ります」と、「痰を取らないと窒息の危険がある」と管をどんどん突っ込む拷問。それによりまず口封じ。悪くなる種作り。
後は徐々に専門的な医療的拷問で痛めつけられて弱らせていく。
もう手遅れ!葬られるまでの計画が始められてしまった。
アッと気づいた時には管を目いっぱい突っ込んでる。肺や声帯がどれだけ傷つけられてるかもわからない。その後はどんどんどんどん痰がたまってくる。そのたびに痰取りの拷問。患者が何か言えば痰取りの拷問、何か要求すれば拷問で声を出せなくされ、伝わらないようされてる。
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まるで看護師が喀痰を吸引したから痰がたまったか、のような記述です。
「口封じのため」とか「痰取りの拷問」とか穏やかではありません。

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喉から入れる管が入れすぎていないかなどと言うと、鼻から入れてさらに苦しめる。
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コミュニケーションがうまくいかなかったようですね。面会時間帯に張り付いている家族がいたら、医療職はひと声かけてから処置します。無言でゴリゴリ吸引するような看護職はまずいないでしょう。

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(とろみであまり好かないお茶ではあるがあまりに痰取り方法が酷いので)痰をお茶で(胃のほうに)流し込みたいと言った時も、看護師に完全に否定され、また管をつっこんで痰取りの拷問、どうしようもない。
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痰を胃に流し込む、という新提案です。

まず基本的なことがわかっていませんね。
「痰」は口の中にある唾液とは違います。気管や気管支の奥をふさぐ分泌物です。それが口の中に上がってくると、道路でおっさんが「カーッ、ペッ」と吐いているあれになります。この方はそこらへんを取り違えているのでしょうね。

口の中に出てくる前の気道分泌物を吸引するには、相当深くまでサクションカテーテル(いわゆる管)を突っ込む必要があります。介護職が実務者研修で習うのは、せいぜい口の中とか鼻腔の中とかまでですから、そんなに悶絶することはないでしょうが、生き死にがかかった病院だと、奥深くまで容赦なく吸引せざるをえないこともしばしばです。痰づまりを解消したいと思っても、外勤先で気管支鏡が置いてなく、カテを奥深くまで突っ込んで救命したこともありました。

絶食にされているようですので、嚥下機能も相当落ちていたのではないかと思われます。むせることもなく、静かに誤嚥するわけです。お茶を飲めば、胃ではなくて肺に押し込むことになり、肺炎の再発・悪化やむなしとの判断かもしれません。

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息が詰まってはいけないと当たり前のように言われる吸痰ですが、私の親が高齢にもかかわらずもんどりうっていました。入院前は取ってもらったこともないのに急に奥まで突き刺すように入れられて。何か間違っていませんか?
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>入院前は(痰を)取ってもらったことがないのに
それもそのはずで、入院する前は痰の量が多くないのですから、取る必要はありません。

状態が悪いから痰が貯まるのであって、それを放置していたら換気不全→低酸素血症→窒息死でしょう。スタッフとしても吸痰しないほうがよっぽど楽ですよ。夜勤なんか特にそうです。なにより、わざわざ手間のかかる喀痰吸引を「拷問のため」にする医療者がいるとは考えにくいですね。私が看護学校で教えるときには、「1 回の吸引時間は最大でも10秒以内。処置を始めるのと同時に、息を止めてみましょう。相当苦しいのがわかります」と伝えます。むやみやたらと行うわけもなく、モニターを見たり聴診器で呼吸音を聞いて、必要な限りで処置するものです。

吸痰を「必要がない」「納得できない」というのなら、退院すればよいのです。
好きなものを好きなだけ食わせて、誤嚥するならすればよく、そうやって想いのままに人生を閉じるのがよいと考えているのなら、自宅で大往生すればよいわけで、病院をご利用頂く必要はないのです。そういう方こそ、責任を取りたくないのか、文句を言いまくりながら病院にいたりしますが。

●超理論

独自の理論にこだわる身内は、必ずいます。そして私らが説明してもあまり理解を示されません。理解を超えると陰謀論に及ぶことがあります。

うちのじいちゃんは病院に苦しめられている。命を狙われている。

【1】必要性も考えず、ひたすら手を動かすことだけで「やっべ、私すげー仕事してる。超イケてる(死語)」と満足感にひたる看護職がいる
【2】患者を苦しめて喜ぶようなサディスティックな看護職がいる。
【3】患者を苦しめて状態が悪くなると、検査だ処置だと余計な出費ができるので、病院が儲かる。

(1)も(2)も、医療職がずいぶん信用されてないなーと思います。まず(1)ですが、処置やらなにやらをすれば記録したり、物品補充などの手間が増えます。若いうちは仕事を覚えようと必死でしょうが、ある程度の経験を積んだらあまりやりたくないのが本音です。(2)は人間の内面まではわかりませんからなんとも言えませんが、怪しい行動をしていたら組織内でチェックされます。看護師の世界はピラミッドのような序列がありますから、同調圧力も半端なく、そういう人は端々に異常さが見え隠れしますので、まず浮くでしょう。
(3)は、寝たきり老人がいるような療養病床では、パック料金(包括払い、いわゆるマルメ)なので検査や処置をすればするほど赤字ですから誤解です。

実際、こんなコメントもありました。
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アホなことをした。バカなことをされた、悔しくて仕方がない。
こっちは治療と思うから病院を信じ医者や看護師の言うことを信じて色々次から次、伺いを立ててきたのに禁止ばかりされてそれがただの拷問だったとは。まだまだ考えられるあらゆる治療とされてきたことが全部病院の策略だったななんて。治るように治療してもらえるはずの専門の技術を持った病院じゃないのか。
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そんなことをして一体なんの得があるでしょうか。
ヂアミトールを点滴しまくって「殺戮の天使」になったナースも中にはいますが、我々は基本、患者のためにと仕事する生き物です。心身ともに楽な仕事でもないのに、せっせと人殺しをしていて何のやりがいを感じられましょうか。

●クレーム

思路が独特な方に対しては、何度も何度も説明しても理解が得られないことがあります。それゆえにトラブルになることも多いです。担当医で納得しないと、「院長を出せ、土下座しろ」から始まり、保健所に通報、警察や県などに相談、Google mapに☆1つをつけてコメントで誹謗、ブログやツイッターで書き散らすなどもしばしばです。ベストと思うことをやった上でも、「人殺し」だのと罵られますから、メンタルを保つのはなかなか大変です。

ヂアミトールを点滴した容疑者の心情はまったくわかりません。が、彼女が働いていた終末期医療の現場でも、余命幾ばくもない方を静かに看取るというはずが、忍者屋敷のようにあちこちから思わぬ横槍が飛び出してくるために心身ともに疲弊し、看護職としての仕事に絶望し、倫理観も麻痺し、やってはいけない行動に出てしまったという側面があるのかしれません。

医療職も患者・家族の側も、お互いにリスペクトする間柄になれればいいのですが。



日本でもできる「安楽死」「尊厳死」について、医者として質問に答えます。
聞きたい情報があればこちらからお寄せ下さい。
https://docs.google.com/forms/d/1nwfWK0bg3ILwCWzdYpF1eu4MjgRpuTn5Szb6-uMQo4s

2018年8月9日木曜日

ほんとに救急車呼びますか(その2)

国の方針もあって、寝たきり老人を病院から家に引き取ることが増えました。
「口から食べないから」「食べると誤嚥するから」と鼻から管がつっこまれて家に帰されることもしばしばあります。

こんな話を見てみましょう。

●経管栄養

92歳女性。
年相応の衰えはあるが、自宅でなんとか自立して生活していた。ある晩、夜中に尿意を催してトイレに行こうとした。昭和ひと桁生まれなので、電気をつけるのがもったいないと考えて手間を惜しみ、暗い中で動いて足を滑らせ尻もちをついた。ベッド脇で動けなくなっているところを、翌朝、同居の息子に発見され救急要請。検査で左大腿骨転子部骨折と判明。即日入院し手術(人工股関節置換術)を施行した。

術後間もなくリハビリが始まったが、本人は頑固に拒否した。理学療法士や看護スタッフから、廃用が進んでしまいADLが低下してしまうことなどをわかりやすく再三説明し、優しく促したが頑として聞き入れなかった。急性期を過ぎたためリハビリ病院に転院の予定だったが、リハビリをしない腹づもりなので行き先はなかった。ほとんど寝たきり状態になった後で、老健施設に退院した。認知症の症状も出てきて、食事を食べなくなったため、鼻から胃まで管が留置され、栄養剤が注入されるようになった。

強い意志をもってリハビリは一切しないが、「足の付け根が痛い」としきりに訴えるので、ロキソプロフェン、レバミピド を定期内服していた。
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まあこういう人はけっこういます。急性期病院としては、ベッドが回転しないと地域での救急車の受け入れなどのミッションが果たせませんし、入院が長くなると売上も減る仕組みですから、「とっととどこかに行ってもらいたい」ということになります。

薄味の治療で納得いただければよいのですが、われわれ医療職としては、(どんなに無理筋でも)治療法があるのなら提示しなければいけません。法律や判例なんかで義務づけられていますからね。ただまあ、家族の希望とはいえ、その後の見通しもないままに手術するのはどうなのでしょうかね。

手術の後は回復期リハビリテーションとはいうものの、超高齢者にまじめにリハビリに取り組んでもらおう、というのはそもそもご無体な話です。寝たきりになるような人がV字回復をして歩けるようになった症例を、わたしの医者人生ではほぼ見たことはありません。

リハビリの必要性を説いても、高齢な本人からは、
「どうせもうすぐ死ぬんだから」
「年寄りいじめてどうするんだ」
とか絶叫されます。身体は動かしたくなくても、口は達者だったりします。

一方で家族はリハビリすれば復活して元通りになると思い込んでたりします。
本人はまるでやる気が無いとしたら、医療職としては板挟みで頭を抱えるわけです。
そうこうしている間に、本人はどんどん衰えていきます。メシも口から食べられなくなったりします。

家族は当事者意識がないことも多く、「とにかく元気にしてください」と無理な要求をします。この方も「食えなくなったら鼻から管を入れてください」となりました。

●痛み止めのチカラ

つづきです。
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某日から、心窩部違和感を認め、ロキソプロフェンは頓服に変更となった。
3日後に、経鼻胃管から黒色の血液が引けるようになった。血液検査でもHb 6g/dlと貧血を認めた。
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胃粘膜から出血したわけですね。
既往歴を見てみましょう。
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【既往歴】糖尿病、脳梗塞(シロスタゾール 200 mg/日内服)、高血圧症、脂質異常症
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出血しやすい素地はたっぷりです。

搬送時はこんなかんじです。
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【身体所見】意識清明、身長 143 cm、体重 32kg、体温 38.2°C、呼吸数 16 回/分、脈拍 112 回/分、整、血圧 161/78 mHg、眼瞼結膜に貧血。眼球結膜に黄疸なし。心音は正常、心雑音を聴取しない。呼吸音に異常なし。腹部は平坦・軟、腸蠕動音正常で自発痛、反跳痛 はない。両側下腿に圧痕性浮腫を認める。末梢冷感はない。

【主な検査】 静脈血液ガス:乳酸 8mg/dl、pH 7.429、PCO2, 34.0、PO2 95.0 、HCO3 22.1、ABE -1.5。血液所見:RBC 216 万、HD 6.2 g/dl、Ht 19.9%、MCV 88.0、MCHC 32.6、WBC 8,350、Plt 24.6万)、AST 21、ALT 15 、ALP 214 、LDH 162、CK 39 、TP 5.1g/dl、Alb 2.6、T-Bil 0.4、BUN 28.5、 Cre 0.51 、eGFRcre 85 、Na 135 、K 3.9 、CRP 0.36、PT 活性 91.8%、APTT 23.5秒 (単位は割愛)
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かなりの貧血ですね。赤血球6単位を輸血した上で緊急内視鏡を行うと、でっかい胃潰瘍と露出血管がありました。血管から血が吹いていたため、クリップを打って止血して凝固して終了となりました。消化器内科の先生ってホントにかっこいい。

●メイキング of 胃潰瘍

この方は老健から運ばれてきましたが、痛み止め(NSAIDs)がダラダラと長期投与されていたことで胃潰瘍ができたうえ、脳梗塞でいわゆる「血をサラサラにする」シロスタゾールで出血しやすい状態にあったことが原因と思われました。 一般的な NSAIDs の上部消化管出血、穿孔に対するリスクは非内服者に比して4.5倍です。予防がなされていないと10~15%の患者に胃潰瘍ができ、1%の患者は消化管出血します。とくにNSAIDs投与を開始してから3ヶ月以内の発生リスクが高いとされます。この方もビンゴですね。

老健だと看護師の目も届くでしょうが、こういう人が家にいたらどうでしょう。
NSAIDs 潰瘍の半分近くが、胃痛などの自覚症状を欠きます。早期に潰瘍に気づくというのはなかなか無理ではないかと思います。もしも家で亡くなったとしても、「体調が悪くなったのに気が付かなかった」といい張れば、警察に事情を聞かれたとしても、罪に問われることもないのではないかと思います。素人の私の浅知恵ですから実際どうか知りませんが。

この点を逆手に取るとどうでしょう。

例えば、
「うちの婆さんを病院や老健に置いておけば、月10~20万円がかかる。この金額をうちみたいな蓄えがない一般的な家庭でいつまでも捻出するのは厳しい。介護は先が見えない。介護職が懇切丁寧にケアをしてくれるのはありがたいが、それゆえにいつまでも経済的負担が続くというのも苦しい。「老い先短い人のケア」よりも自分らの生活が大事だ。
施設においておくのをやめて、そろそろ家に引き取って枯らしていくことも考えなければならない。もちろん、虐待だの何だのと言われて警察沙汰になるのも面倒だ。どうしたらよいか」

となった時に、病院や施設から高齢者を家に引き取り、あちこち「痛い」「痛い」というのでせっせと薬を飲ませて、しかるべきタイミングで胃潰瘍ができて出血してそのまま帰らぬ人・・というパターンも有るのかも知れません。


日本でもできる「安楽死」「尊厳死」について、医者として質問に答えます。
聞きたい情報があればこちらからお寄せ下さい。
https://docs.google.com/forms/d/1nwfWK0bg3ILwCWzdYpF1eu4MjgRpuTn5Szb6-uMQo4s

2018年8月7日火曜日

経管栄養で糖尿病で

経管栄養ですが、こんなケースも有りました。

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94 歳女性
【主訴】発熱
【現病歴】特別養護老人ホームに入所中。寝たきりで意思疎通は困難で、自力で食事が摂れないため経鼻経管栄養。誤嚥性肺炎による入退院を繰り返していた。
【既往歴】脳梗塞。腰椎圧迫骨折、2型糖尿病、高血圧症、右大腿骨頸部骨折、急性胆嚢炎, 誤嚥性肺炎
【生活社会歴】喫煙歴なし、飲酒しない、要介護5
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医療介護業界以外の方からは、私達に対して「90歳過ぎて治療すんのかよ」とか「年寄りをネタに儲けようなんてクソが」とか指摘されるのだろうと思います。そりゃあ、あっさりテイストの医療にして、自然に任せるのがいいのでしょう。

そうはいっても、こんな図式ですから無理というものです。
・医療業界:生命体として長く生かすほど、診療報酬が入ってくる。
・介護業界:施設の稼働率を上げるために、いつまでもいてもらいたい。
 (空床だと一円も生まない。新たな客を捕まえてくるにもコストがかかる)
・本人の家族:長く生きててもらえれば、年金がもらえる。(年金は家族の生活費)
 できればいつまでも入院しててもらえれば、年金を使わないでよくて助かる。
 (いろんな減免を使いこなせば、医療費のほうが介護費用より安かったりする)

家族の満足やスタッフの給料を出すためにも、イヤイヤ延命せざるを得ないんですよ。

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某年から2型糖尿病の内服加療が開始され,近年は1日あたりグリメピリド(0.5mg) , シタグリプチン(50mg)、ミチグリニド(10mg) でHbA1c 9%台,随時血糖値 250 mg/dl程度。
某年X月Y日から38°C台の発熱と酸素飽和度の低下(86~87%)を認め,同日救急受診。
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経管栄養あるあるです。また誤嚥でもしたかなあというところ。
CTでは両肺下葉と右肺上葉背側に浸潤影。誤嚥性肺炎でビンゴ。

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血ガス:血糖値 1032 mg/dl, pH 7.407, HCO3- 19.7 mmol/L, 血漿浸透圧369 mOsm/L, BUN 66.1 mg/dl, Cre 0.74 mg/dl
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高血糖高浸透圧症候群もかぶってました。
これは高齢者に多くて死亡率は 16.0%と高いです(Fandini G)。
管理がいまいちの2型糖尿病、誤嚥性肺炎、寝たきりで水が容易に飲めない、というコンボで高度の脱水に至ったわけですね。

まずは血糖を下げるわけですが、大量の補液をぶちこむと心不全になるので、結構たいへん。インスリンも持続静注しながらカリウムの値にも気をつけながら治療します。


この方も家族でバトルがあったようです。
●面会によく行く近くの家族A
「もう寝たきりだし、治療したからといって話したり歩いたりできるわけでもない。ただただ延命させるのもかわいそうだ。救急車は呼ばなくて良い。自然な形で」

●お盆と正月ぐらいしか面会に来ない東京の家族B
「田舎だからといって手抜きは許さない。とことん治療してもらわければならない。ドラマのコードブルーみたいに、ERで一生懸命やってもらって当然」

●家族Aの息子C
「もうこんなふうに(注:ねたきりよぼよぼ)なってんのに今さら治療してどうすんの?じいちゃんのところ(注:天国)のところに送ってやればいいじゃん。」


我々は病院に来たからには治療せざるを得ません。治療しないのならば病院に連れてきてほしくないわけです。

幸い、肺炎も高血糖高浸透圧症候群も治って退院の運びになりました。
すっかり寝たきりですから、介護施設に戻るために寝台車の介護タクシーが必要です。運ばれてきた時は救急車でしたが、帰りまでタクシー代わりに使うことは当然できません。遠くの施設まで介護タクシーだと数万円かかります。

家族から恨み言を言われました。
「お前が助けたからこんなに無駄なカネがかかる」

「おれたち、一体誰のために仕事してるんだろうなあ」とネスレのインスタントコーヒーにお湯を注いで一気に飲み干して、また老人施設からの救急車を迎え入れるのでした。

日本でもできる「安楽死」「尊厳死」について、医者として質問に答えます。
聞きたい情報があればこちらからお寄せ下さい。
https://docs.google.com/forms/d/1nwfWK0bg3ILwCWzdYpF1eu4MjgRpuTn5Szb6-uMQo4s

2018年8月3日金曜日

ほんとに救急車呼びますか(その1)

「自分の家で死にたい」という人は多いです。死を迎えるプロセスといえば、テレビのドラマみたいに、病気が静かに進行して、しだいに弱っていくイメージがあるのでしょうが、そういう人ばかりではありません。

たとえば、こんなケースでどうするかです。

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83歳、男性。
【既往歴】胃癌で胃全摘術、腹部大動脈瘤にてステントグラフト内挿術,、慢性閉塞性肺疾患で在宅酸素療法、肺結核後遺症で遷延性肺瘻孔。
【生活社会歴】喫煙:既喫煙者 30~40本/日×60年、飲酒:3合/日×50年
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病気のオンパレードみたいな人生です。喫煙のせいで肺を壊したのは自業自得と考える読者も多いかも知れません。喫煙のせいで動脈硬化がすすんで大動脈瘤にもなりました。トータルすれば、これまでの医療費は1千万は軽く超えているでしょう。

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ある日の夕食後、自宅の居間で突然激しいいびきをかき始め、妻の呼びかけに反応しなくなった。
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ここが分岐点です。

<選択肢>
A 「もうだめだわ、お父さんこれまでどうもありがとう」
B 「大変だ、今すぐ救急車だわ」
C 「まずは誰か子どもを呼ばないと。えーと沖縄の息子の携帯は・・」

混乱して憔悴して、救急車よりも先に葬儀屋を呼ぶ家もあります。葬儀屋さんから、「まだ生きてるんだけど診てくれないか」と困り果てた電話が病院に来ることもあります。

この場合は、「家で死なれても困る」というジャッジで妻が救急車を呼びました。

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救急隊到着時、意識はJCS300, 収縮期血圧 200mmHg, 脈拍数 120回/分, 呼吸数 10回/分, 瞳孔 6/6mm, 対光反射なし
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かなりヤバそうです。救急隊に担ぎ込まれたときの主な所見はこんな感じです。
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●鼓膜温 39.6°C, 血圧 235/104mmHg, 脈拍 138/分, SPO2 91%(酸素 10L/分リザーバーマスク下)、呼吸は不規則でいびき様
●神経:JCS I -300, 瞳孔5/5mm, 対光反射なし。左バビンスキー反射陽性、自動運動なし、筋緊張は亢進, NIHSS 38/42 
●頭部単純CT:橋から中脳方向にかけて、8ml程度の出血あり、周囲は低吸収を呈する。脚前槽まで血腫が及び、第三脳室後部底にも穿破。明らかな脳室拡大はなし。 
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橋出血とそれによる意識障害ですね。世にいう昏睡状態ってやつです。すでに瞳孔散大していて脳の機能は回復不能と思われました。

この橋出血は予後不良、要は命を落とすことが多い上、よしんば命が助かったとしても後遺症がガッチリ残ることが多いです。この方も脳神経外科は手術しても助けられないといい、脳神経内科的な治療がメインになりました。血圧を下げて、脳浮腫を抑えるという対症療法しかできないということになりました。

ちなみに熱があるのは、出血のせいで脳幹がぶっ壊れたからです。体温調整ができなくなり、呼吸もおかしくなるわけです。呼吸状態が不安定なので、救命のためには気管挿管して、人工呼吸管理が必要です。

もはや、声をかけても手を握っても、本人はおそらく何もわかっていません。脳が深刻なダメージを受けており、外界の刺激に反応することはもうないでしょう。人工呼吸管理をしても若干生命は永らえるでしょうが、ICUのベッドで機械に繋がれた状態です。家族の面会時間も限られます。

ここで選択。
A 延命を希望して、とことん高度な医療を要求する。
B 治療がうまくいかないのは担当医の失態であり、厳しく糾弾する。
C これまで重い病気を乗り越えてきたことに想いを寄せ、静かに看取る
D 苦痛を取り除く医療行為だけを行うよう求める。

突然の展開ですので、かなり動揺するでしょうし、なかなか合理的な判断ができないことは僕らもわかっています。ベテランの看護師が入っていろいろと調整してくれました。医者にできることなんか知れてますからね。

本人は「エンディングノート」みたいなのを作ってたようですが、バタバタした中では家族は気が付きませんでした。

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結局、このケースでは、挿管はせずに静かに見守る方針となりました。ニカルジピンで血圧管理、グリセオールで脳浮腫対策を行いつつ、一般病室で妻と静かに過ごしていただきました。血圧や心拍数がしだいに低下し、妻に手を握られて他界されました。
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血圧管理によって脳出血は減少傾向にありますが、大酒飲みや喫煙者はリスクが高いです(脳卒中治療ガイドライン2015)。この方は、病気を重ねても生活習慣を一向に改善するつもりがなかった人のようです。酸素を吸うようになるまで、タバコも吸っていました。酸素を吸いながらたばこを吸うと、火ダルマになるのでさすがにやめましたが。

こういう話をはたから見れば、「クソジジイ、医療費の無駄だ」「老害、家で死ね」とかいうY●hoo!コメントみたいな陰性感情が湧き上がるのもわからないではありません。ただ、医療費の金勘定や制度論をこねくり回すのは、我々現場の医者ではなくて、政治の仕事です。個人的な考えはいろいろあっても、淡々とプロとしての仕事をこなすのが我々です。

皆さんはどうお感じになったでしょう。

亜硝酸ナトリウム

オーストラリアで野生の豚が増えすぎ、減らす方法を研究したところ、亜硝酸ナトリウムが便利であることがわかりました。豚は何でも食べてもりもり繁殖するので、野生化した豚は農作物に多大な害を及ぼすようです。

亜硝酸ナトリウムは肉に使われる食品添加物で、いわゆる防腐剤です。古くなった肉の色を鮮やかにして見栄えをよくしたり、食中毒の原因となるボツリヌス菌などの繁殖を抑えます。肉の生臭さもごまかします。ハムやベーコン、ホットドッグのような肉が腐らないようにするわけです。

これを飲んで中毒になった人が、「防腐剤は腐った人生を片付けるのにも使える」とうそぶいていましたが、亜硝酸ナトリウムとはどのような薬なのでしょうか。

■メカニズム

亜硝酸ナトリウムは血液に入ると、赤血球中のヘモグロビンを変化させてメトヘモグロビンに変えます。このメトヘモグロビンは、ヘモグロビンと違って、酸素を結合して輸送する能力がはるかに低下しています。酸素が運べないので、メトヘモグロビンを多く含む血液は赤みを失い、茶色に見えます。こうして全身が酸欠(低酸素血症)になるので、中枢神経系や主要な臓器が障害され、死にいたります。

井戸水に亜硝酸が含まれていて、知らずにそれで粉ミルクを溶いて赤ちゃんに飲ませたらメトヘモグロビン血症になった事例もあります。

メトヘモグロビンが増えると困るわけで、生体にはこれをヘモグロビンに急速に還元する酵素があります。メトヘモグロビンレダクターゼ(別名ジアホラーゼ、シトクロムb5レダクターゼ)です。が、亜硝酸塩の量が多すぎると、こうした保護機構は圧倒されてしまいます。酵素が邪魔されるので亜硝酸塩の効果が増します。進化したとはいっても、豚も人もこの辺の弱点はおんなじです。

また、玄米や米ぬかから作られるフィチン酸(イノシトールヘキサホスフェート,IP6ともいう)も酵素を阻害します。強い金属キレート作用があるので、玄米などをよく食べる人は、ミネラルが吸収されないんじゃないかと心配する人もいるくらいです。イノシトールのサプリは健康食品の店で容易に購入できます。

■症状

大量の亜硝酸ナトリウムで中毒をきたすと、酸欠になって意識がなくなり、最悪では死に至ります。その前に眠くなったり、混乱がみられたり、頭痛などが生じます。

具体的には、血中のメトヘモグロビンが15‐20%以上に増加するとチアノーゼを生じ、40%以上では頭痛やめまい、呼吸困難、意識障害などが出現します(日本救急医学会web)。

治療としてはメチレンブルーを注射したりします。理科の実験で「酸化と還元」を勉強する時に使った、あれです。

■亜硝酸ナトリウムで死ぬ

亜硝酸ナトリウムの推定致死量は成人でわずか3gです。寝たきり老人で、鼻から管が入れられて経腸栄養が注入されている人だと、栄養剤に混入されたらひとたまりもありません。ヂアミトールを点滴するには、注射器や点滴ラインが必要ですが、鼻管だったら病院でなくても決行できてしまいます。

被害を防ぐために、手口を紹介しておきましょう。対策を講じてほしいと思います。

(材料)
亜硝酸ナトリウム   10g
水          50ml
重曹         小さじ1
イノシトール 500mg 100カプセル [並行輸入品]   10錠
吐き気止め(プリンペラン 5mg 錠  6錠)
痛み止め (ロキソニン  60mg錠  2錠)

0 亜硝酸ナトリウム液を飲む30分前に吐き気止めと痛み止め、イノシトール入りのカプセルを飲みます。
1  水に亜硝酸ナトリウムを溶かします。非常に水に溶けやすいです。
2 1を飲む直前に、水に炭酸水素ナトリウム 小さじ1杯を溶かして飲みます。
3 1を一気に飲み干します。味は目立たず、吐くほどマズいものではなさそうです

※1 亜硝酸ナトリウムは血管平滑筋をゆるめて血管を拡張させるので、血圧が下がってショックを起こして死に至ります。また、血管が開いて血流が増えるために頭痛が起こりますが、鎮痛薬を飲んでおけば防ぐことができます。

※2 胃酸を中和すると亜硝酸ナトリウムがすばやく吸収されます。

■入手法 

亜硝酸ナトリウムは食品の添加物として広く使われているので、入手も簡単です。ホームセンターでも買えるところがありますし、インターネットで簡単に手に入ります。売価だけみれば海外の方が安いですが、送料を考えるとamazonや楽天で購入するのが良いでしょう。

物質的にも非常に安定していて、管理が良ければほとんど永久に保管できます。ただ空気中の湿気を吸収しますので、密閉容器に保存します。冷暗所でなくても常温で構いません。不要になった亜硝酸塩はトイレに流せば処分も簡単です。


身の回りにこういった薬を集めている人がいたら、命を狙われているかも知れませんので、気をつけてください。また、自分自身が死ぬほど辛いときには、こうした薬を手に入れて自決しようと思うかもしれません。そんなときは緩和医療科とか心療内科とかの門をたたくことをおすすめします。力になってくれるはずです。

日本でもできる「安楽死」「尊厳死」について、医者として質問に答えます。
聞きたい情報があればこちらからお寄せ下さい。
https://docs.google.com/forms/d/1nwfWK0bg3ILwCWzdYpF1eu4MjgRpuTn5Szb6-uMQo4s

2018年8月2日木曜日

ヂの薬

横浜の老人病院での大量殺戮に使われたと言われる「ヂアミトール」。
犯罪行為は許せませんが、この薬の名前につけられた「ヂ」には味わい深いものがあります。この「ヂ」から、医療従事者なら誰しも連想する薬があります。
ヒサヤ大黒堂での不思議膏ではありません。そりゃ「ぢ」です。

チラーヂンS
言わずと知れた甲状腺ホルモンの飲み薬です。一般名はレボチロキシン ナトリウムで、甲状腺機能が低下した人に足りてない甲状腺ホルモンを補うために処方されます。

非常に良い薬なのですが、使い方によっては高齢者にとっては危険です。
自決かよ、というケースも何度か体験しましたので紹介しましょう。


●飲み過ぎで甲状腺機能亢進症
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80代男性、独居。妻を亡くしてから意欲が落ち込み、食欲不振、不眠や便秘も出現した。遠方の娘に連れられて受診。抑うつのスクリーニングで行った採血で甲状腺機能低下症を指摘された。チラーヂン®の処方が開始されて、意欲や食欲が改善した。
外来に定期的に通院して安定していたが、やがて甲状腺機能が低下してきた。原因を探ろうと、医者が「最近変わったことはありませんか」と聞いても、「なんでもねえ」と会話が終了し、詳細は不明。認知機能を調べようとしたが、カンカンに怒鳴り散らして検査はできずじまいであった。やむなく、チラーヂン®を追加して問題なく経過していたが、定期受診の日に来なくなった。電話にも出ないので、民生委員に連絡して見に行ってもらうと家で倒れていた。救急車で搬送されてきて、そのまま死亡確認。
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●どんな薬も認知症の人にはフラグ
しかも、言葉も忘れてうまく話せないとか、一人暮らしとかともなると、フラグがビンビンに立ちまくりです。高齢者は強固な意地がありますから、医者からの質問も、「バカにしやがって」とか「文句あんのか」と喧嘩ごしにとらえます。なかなか正直に教えてくれません。

この方も、胃薬を薬局で買って飲んでいたようで、チラーヂン®の吸収が悪くなったようです。お薬手帳に売薬の情報が貼ってなく、原因不明としてチラーヂン®が増えました。
認知機能も落ちており、一日に何回薬を飲んだのか忘れてしまうようになりました。薬を飲みすぎて、低めだった甲状腺機能は正常を通り越して亢進状態です。

●甲状腺ホルモン過剰は無駄に元気
薬を過剰に飲んだだけで、メシはうまいし、気分はすっきり。調子が良くなったもので、高齢者は「治った」と思い込んで病院に来なくなります。「この薬をたくさん飲むと調子がいい。あのやぶ医者より、俺のほうがよっぽど優秀だ」と過剰なペースで薬を飲み続けます。

教科書的には、甲状腺機能亢進症の症状は次のようなものです。
決していいことづくめでは無いことを覚えていてください。
・手足のふるえ(振戦)、けいれん
・体重減少
・動悸や頻脈
・精神症状(つかれやすい、不眠、集中できない)
・下痢や嘔吐

甲状腺ホルモンの薬を飲みすぎると、代謝が亢進して筋肉が痩せていきます。食べた以上に運動してエネルギーを燃やしているイメージです。とくに腰回りの筋肉がごっそり落ちるので、しだいに布団から起きるのも億劫になります。台所に立っているのがしんどくなり、メシを作るのも面倒で食事も抜きます。食事をとらないから、薬も飲まなくていいや、という発想が出てきます。当然、トイレに行くのも面倒で水も飲みません。

布団で数日転がっていると、高齢者はあっという間に寝たきりになります。尿路感染症や肺炎にもなるので、高齢者はみるみる状態が悪化して死に至ります。

このケースもこれまで書いてきたような経過と考えられました。

●甲状腺を甘くみない
甲状腺ホルモンを飲みすぎて、甲状腺クリーゼという状態に陥れば、異様な高体温や、心不全や不整脈をきたして命に関わります。筋力が落ちて寝たきりになっているところに、このところの暑さがかぶれば、熱中症で持って行かれるでしょう。窓を締め切った家の中に数日倒れていれば、遺体はみるみる腐敗するので、司法解剖でも死因はわからないとでしょう。こうやって、もともと生体内に備わっている物質を使って、高齢者を「始末」することもできるわけです。

最後に一言。甲状腺は奥が深いので、単にホルモン剤を処方したり薬を止めたりすれば良いってものではなく、専門医に診てもらうのが筋です。ただ、甲状腺の専門医は数が多くないのでどこも混んでいます。筆者の病院だと、大学から週1で専門医が来ますが、甲状腺外来は毎日150人がザラです。飲まず食わずトイレも行かず、という内分泌の先生のストイックな仕事ぶりに驚きます。専門医ほどのクオリティは難しいにせよ、せめて薬は医師の指示通り飲んでほしい、と願わずにはいられません。


日本でもできる「安楽死」「尊厳死」について、医者として質問に答えます。
聞きたい情報があればこちらからお寄せ下さい。
https://docs.google.com/forms/d/1nwfWK0bg3ILwCWzdYpF1eu4MjgRpuTn5Szb6-uMQo4s