2014年2月19日水曜日

賃貸住宅で死んだら

今年の診療報酬を見れば明らかだけれど、厚労省は病院施設ではなくて、自宅での医療や介護を強力に推進している。つまりは、「自宅で死ぬ」ということをプッシュしているわけである。

しかし、持ち家で死ぬ人ばかりではない。市営住宅などであれば特に問題になることもないのだろうけれど、借家で死んだ場合にはどうなるか。

大家サイドの立場はこうだ。

「貸家で死亡者が出た場合には、その旨を『重要事項』として借り主に説明しなければならない。自殺や殺人はもとより、病死や老衰死であっても不動産の価値を大きく毀損する。」

(結論)「借家で死なれては困るから最期は病院で」


ちょっと国土交通省に確認してみた。

1)賃貸物件で死亡者がいたという事実は、不動産取引において必ず説明しなければならない事項なのか

→ 宅建業法35条のいわゆる「重要事項」の中には、死亡者がいたかどうかは含まれていない。


(2)変死でなく、がんや老衰等で家族や医師らに看取られながら死亡した場合にも、その旨を必ず顧客に説明しなければならないか。

→ 宅建業法47条では、業者が相手方の判断に重要な影響をおよぼすこととなるものについて、故意に事実を告げないこと等を禁止している。しかし、判例から見て、一般的に病気や老衰による自然死はこうした重要な影響を及ぼすことには該当しないため、特に説明を要しない。

【東京地裁 平成19年3月9日】
老衰や病気等による借家での自然死については、当然に賃借人に債務不履行責任や不法行為責任を問うことはできない。

「借家であっても人間の生活の本拠である以上、老衰や病気等による自然死は、当然に予想されるところ」

【東京地裁 平成18年12月6日】
賃貸アパートにおいて、建物の階下の部屋で半年以上前に自然死があった事実は、瑕疵に該当しない。

「社会通念上、賃貸目的物にまつわる嫌悪すべき歴史的背景等に起因する心理的欠陥に該当しない」



(3)病死や老衰死の取り扱いについての通達やガイドライン、業界団体の取り決め等があるか。

→ 国からの通達やガイドラインはないし、業界団体の取り決めは承知していない。


これで借家で看取っても大丈夫、となるかどうかだがどうだろう。それにしても、いつまで経っても回答がこない厚労省とは違って、即答できる国土交通省の担当官の優秀さはさすがである。

2014年2月18日火曜日

放送大学に医学部新設 総務省方針

(虚校新聞から引用)

総務省は、所管する通信制の放送大学(千葉市)に医学部を新設する方針を固めた。18日、新藤義孝総務相が閣議後の記者会見で明らかにした。

新たに医学部が新設されることとなった放送大学は、教養学部のみの単科大学で、平成25年度は全国で約8万4,000人が学んでいる。大学受験を必要とせずに書類だけで入学でき、テレビやラジオで場所を問わずに受講できる大学で、必要な単位を取れば学士の学位を得られる。

医学部は入試をクリアしさえすれば、ほとんどの卒業生が留年もせずに6年間で卒業して医師免許を取得でき、就職先の心配をしなくて済むため、近年人気が高まっている。その一方で、「入試を突破したら最後、先輩から部活やアルコールによって骨抜きにされて学習意欲が著しく落ち、どこからともなく回ってくる試験資料のみを丸暗記してテストに臨み、クソ度胸だけが身につくところである」との指摘が東大安田講堂を封鎖した人たちの時代からなされていた。

新藤総務相によると、「総務省は行政監察も担当しており、行政の非効率は正さなければならない。このたび、国立である広島大学医学部において、神経解剖学の追試に120人が不合格となるなど、巨額の税金を使って学んでいる医学生の学習意欲が乏しいことが表面化した。単に医学部に在籍しているだけで将来も安泰、とおごっている医学生を駆逐しなければならない」と述べ、入試を課さない医学部の創設に意欲を見せた。

新たに設けられる放送大学医学部は、定員を設けず、医師になりたい者はあまねく受け入れる方針。座学はネットを用いた教育を行い、定期試験もネットを活用して行う。生化学や生理学などの実習は研究者を志望しない学生には割愛し、解剖実習のみプレステ4を用いたVRにて体験する。臨床実習は研修医が来ないへき地の病院の空いている枠を用いて順次行う。通常の医学部と同様に各学年1年ずつ留年ができ、最大12年間まで在籍は可能。

医師不足に即応できるよう、医師国家試験の教育に詳しい予備校関係者を教授として任命する予定で、MTMこと三苫 博医師(テコム講師、東京医大医学教育学教授)らの名前が取りざたされている。授業料は未定だが、医学部のカリキュラムには臨床実習が含まれることから、私立医科大学並みとなる予定。大学側は、初年度は5000人ほどの入学希望者があると見込んでいる。

放送大学医学部の卒業生の多くが国家試験に合格すれば、我が国の医師の需給は大幅にだぶつき、学生のころから勉強しない医学生は路頭に迷うだろう。

学長に内定した坂本義太夫 京都大学教授(医学教育学)によると、「弁護士だって食えねえ時代に、医学部に入ったぐらいで18、19のガキがエリートぶってんじゃねえよ。お前らも努力しねえと淘汰されるってことを叩き込んでやる。ぐはははは」と、新たな医学教育に向けて並々ならぬ決意を見せた。

2014年2月1日土曜日

溺水ハウス

救急車で来ても、「ああ、残念だけど仕方ないね」とされてしまうシチュエーションがある。

その一つが風呂に沈んでおぼれた状態。

「いつも元気な90歳の婆ちゃんが、いつものように夕飯を食べて、食後に市販の風邪薬を飲んでから風呂に入った。いつまでたっても上がってこないので、家族が見に行くと湯船の水面に顔面を伏せた状態でぐったりしている婆ちゃんを発見。救急車で搬送するもあえなく死亡確認。」


「風呂で寝ると死ぬぞ、年寄りは特に死ぬからな」とぼくは外来で力説するようにしている。市販の総合感冒薬に含まれる抗ヒスタミン薬は眠くなる。老人だとまさしく「こうかはばつぐんだ!」

湯船が大きいときには仰向けの状態で風呂のお湯の中にずり落ちる。体育座りするような狭い風呂だと、カクンとうなだれて水面から鼻やら口からお湯が入って溺死だ。

追い炊き中に寝てしまうとなおさら悲惨だ。爺ちゃん・婆ちゃんの世帯では昔ながらの「バランス釜窯」とかいう、いい湯加減になったら手動で止めるタイプの風呂が多いと思う。これで、入浴中に寝てしまっておぼれ、そのままエンドレスにお湯が沸くとどうなるか。誰かが発見するまでぐつぐつ煮出されてしまう。ぼくが検案したケースだと、まさに豚骨スープ状態になっていた。
そのままお湯がなくなるまで沸かされれば、空焚きになって風呂から出火し、焼死体で発見される。

「カゼ薬、飲むなら(風呂)入るな、入るなら飲むな」である。

急変とみせかけて

「肺炎の高齢者が入院していた。呼吸状態が悪いので、酸素マスクで高流量の酸素を流していた。具合が悪いので家族が簡易ベッドを病室において付き添っていた。

家族が付き添ってから数日が経ち、肺炎もいくらか改善してきたころだった。夜中に、「先生、呼吸停止です」として呼ばれた。あらかじめ「蘇生処置は一切しないでほしい」という要望があったので、心臓マッサージなどはせず、そのまま静かに看取ることにした。呼吸が止まれば数分で心臓も止まる。担当医が駆けつけた時には瞳孔も開いており、家族がそろっていたので死亡確認した。死亡診断書を「肺炎」として記入した。家族に連れられて退院された。」


肺炎は日本人の死因の3位だそうで、高齢者の場合には突然呼吸が止まるという事態がわりとよくおこりうる。ここで触れたエピソードも別に何の変哲もない話だ。

ところが、重症の肺炎でぐったりしている人だとどうだろう。そりゃあ、うんとひどい肺炎の場合には挿管されて人工呼吸器管理されたりして、ICU管理となっているだろうから、家族が付き添うことは難しいだろう。そのかわり看護師がほぼマンツーマンで24時間対応してくれるので心配はいらない。
かといって、どこの病院にもICUがあったり、いつも手厚く看護師がいるわけでもない。不調を訴えてもすぐにナースコールを押せないこともある。モニターを付けていても、夜中だと看護師の配置が薄いので、常にチェックできているわけでもない。アラームが鳴っても、すぐに巡回に来られるわけでもない。

ぼくが担当した患者さんではないが、あまりに急な経過で死亡したので家族が酸素を止めた可能性を否定できない方がいた。

酸素を10Lとかで流している患者さんの場合、酸素のダイヤルをひねって0Lに勝手に下げればみるみる低酸素となり、呼吸は止まり心停止に至る。重症度にもよるけれど、その間早ければ数分というところか。心停止になったあとで酸素のダイヤルを元通りに戻しておけば何の証拠も残らない。

急に亡くなったわけだけれど、肺炎の経過と考えても一応の説明はつくし、何の証拠もないので警察に相談しても「病気で死んだってことで説明できるんですよね?」といわれおしまいとなった。警察としてはもしも司法解剖したところで、「重症な肺炎ですねー」という以上に何かわかるわけでもないので、本音は関わりたくないんだそうだ。

病院としても刑事さんにねちねち聞かれて業務が止まるし、「●●病院で医療ミス」なんてマスコミの餌食になると覚悟して連絡したのに、そんな木で鼻をくくったような対応なのかとあきれた。

つまりは、その気になれば恨みや相続の関係で早く死んでほしいと願う家族が付き添って、暗くなるまで待って、酸素のダイヤルを一ひねりするだけで簡単に完全犯罪ができてしまうわけだ。

病院の夜は怖い。