今年の診療報酬を見れば明らかだけれど、厚労省は病院施設ではなくて、自宅での医療や介護を強力に推進している。つまりは、「自宅で死ぬ」ということをプッシュしているわけである。
しかし、持ち家で死ぬ人ばかりではない。市営住宅などであれば特に問題になることもないのだろうけれど、借家で死んだ場合にはどうなるか。
大家サイドの立場はこうだ。
「貸家で死亡者が出た場合には、その旨を『重要事項』として借り主に説明しなければならない。自殺や殺人はもとより、病死や老衰死であっても不動産の価値を大きく毀損する。」
(結論)「借家で死なれては困るから最期は病院で」
ちょっと国土交通省に確認してみた。
1)賃貸物件で死亡者がいたという事実は、不動産取引において必ず説明しなければならない事項なのか
→ 宅建業法35条のいわゆる「重要事項」の中には、死亡者がいたかどうかは含まれていない。
(2)変死でなく、がんや老衰等で家族や医師らに看取られながら死亡した場合にも、その旨を必ず顧客に説明しなければならないか。
→ 宅建業法47条では、業者が相手方の判断に重要な影響をおよぼすこととなるものについて、故意に事実を告げないこと等を禁止している。しかし、判例から見て、一般的に病気や老衰による自然死はこうした重要な影響を及ぼすことには該当しないため、特に説明を要しない。
【東京地裁 平成19年3月9日】
老衰や病気等による借家での自然死については、当然に賃借人に債務不履行責任や不法行為責任を問うことはできない。
「借家であっても人間の生活の本拠である以上、老衰や病気等による自然死は、当然に予想されるところ」
【東京地裁 平成18年12月6日】
賃貸アパートにおいて、建物の階下の部屋で半年以上前に自然死があった事実は、瑕疵に該当しない。
「社会通念上、賃貸目的物にまつわる嫌悪すべき歴史的背景等に起因する心理的欠陥に該当しない」
(3)病死や老衰死の取り扱いについての通達やガイドライン、業界団体の取り決め等があるか。
→ 国からの通達やガイドラインはないし、業界団体の取り決めは承知していない。
これで借家で看取っても大丈夫、となるかどうかだがどうだろう。それにしても、いつまで経っても回答がこない厚労省とは違って、即答できる国土交通省の担当官の優秀さはさすがである。
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