高齢者は満足に嚥下することができない。とりわけ脳疾患の既往がある人では、嚥下機能が低下しており、誤嚥の頻度が高くなる。
で、高齢者では気管支に異物を詰まらせるというケースが多い。
ボタン電池を飲み込んだという話は聞く。電池が粘膜に張り付いて、電池の包装が溶けて、中に入ったアルカリ性の溶液が漏れて、の粘膜に穴が開いて、縦隔炎をきたして死ぬ例などもまあある。認知症の老人がボタン電池を使うような小さな器具を必要とするのか、と考えていくと、身の回りから撤去すればよいので、まあこれは避けられるかもしれない。
面倒なのは、老人が飲んでいる薬を誤嚥した時だ。
律儀な老人は、せっせと薬を飲む。嚥下機能が落ちたことも気が付かないで飲んでいたりする。
家族も家族で、「おじいちゃん、薬の時間よ」とせっせと飲ませたりする。老人も期待に応えようとがんばって飲んで誤嚥する。処方した医者側にも問題はないのかといわれればそのとおりかもしれないが、診る患者全員に嚥下機能の評価なんてとても手が回らない。
水に溶けないカプセルが気管支に落ちた場合には、内視鏡で取ればよいのでまだ救いがある。
(気管支学.2011;33:431-434など)
一方、素早い対応が必要なケースもある。老人は「ふらつく」だの「めまいがする」だので病院を受診し、貧血と判明して鉄を含む薬が処方されていることは多い。
これを誤嚥すると、特に著しい粘膜障害をきたす。電池でなくても、粘膜が腐食し、重症肺炎の原因となる。重篤な場合は呼吸不全や大量喀血を来たして死ぬ。 すぐに気管支鏡を突っ込んで摘出するべきだが、認知症が入っていると何がどうなったのかがわからないうちに時間が経過し、死ぬこともあろう。引用した論文だと、診断がついて治療されたケースしか載っていないが、なんだかわからないままに死んでしまい、「謎の肺炎」として闇に埋もれている症例も相当数あるんじゃないだろうか。
===たとえばこんなケース==============
◆病棟で
老人病院の夜。当直医が「先生!〇〇さんが低酸素血症です」とコールを受けた。
聴診器を当ててみるとヒューヒューと音がする。異物がつまった気管支とは知らずに、「wheezesだから喘息発作かな。じゃあ点滴と吸入で」と眠い目でオーダーして、当直医は寝床に戻った。
バイトの当直医は申し送りもそこそこに、翌朝、足早に大学病院に戻った。
どんどん呼吸状態が悪化して、マスクで酸素15Lを要する状態になった。さすがにこれ以上は危険と考えて家族に連絡したが、「もう、うちの爺さんは年なんで、今さら救命センターに運んだりしなくてよいです。静かに看取ってください」と言われ、そのまま他界。
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ちなみに気管支異物を疑うような症状は「咳」「発熱」「喘鳴」「胸痛」など。
老人はありとあらゆる症状が出にくいので、診断が遅れる原因となる。誤嚥でも例外ではない。
胸部レントゲン写真で異物が映れば助かるが、影がばっちり映るような異物は多くない。異物が気道を閉塞して生じる無気肺とか肺炎像、異物のせいで吸い込んだ空気が吐き出せなくなる(=空気が肺にたまっている)air trappingといった所見で間接的に見抜くほかない。
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