2018年6月8日金曜日

死ぬマシン

産経新聞にこんな記事がありました。(2018年5月31日)

世界初“安楽死マシン”と、「長生き悔やみ」安楽死した104歳学者が突きつける現実

https://www.sankei.com/west/news/180531/wst1805310038-n1.html

  (引用)
死にたい人は、この機械の中(カプセルのようになった部分)に入り、ボタンを押すと、内部に液体窒素が充満し、酸素濃度が5%に低下。中の人は約1分で意識を失い、約5分後に死亡するというのです…。
引用終わり)

この自殺マシン、2019年には設計図がダウンロードできて、世界各地の3Dプリンターで印刷して組み立てられるようになるというのです。「これを使って、じゃあ俺も」という人がいるかも知れませんが、液体窒素なんか使ってるものですから、実質的に日本では使い物になりません。そこらへんをお話します。


この安楽死推進団体は、「たった4Lの液体窒素があれば十分」といいます。液体窒素1Lが千円ぐらいだそうですが、きっちり4L量ってもらったとして、販売店から液体窒素を買ってくる間に蒸発してなくなってしまうでしょう。販売店からの距離にもよるのでしょうが、最低ラインは10L以上じゃないでしょうか。


運ぶときの入れ物も、断熱がしっかりしたデュワー瓶やステンレスビーカー、特殊な魔法瓶じゃなくてはいけません。これも価格帯が10万円以上です。値が張るので、頼めば販売店でレンタルしてくれるところもあります。ただ、自殺に使われたとあっては、警察が自殺幇助の容疑で捜査開始するでしょうし、証拠品として押収してしまうでしょう。となると親切で貸してくれた人にも多大な迷惑をかけますから、自分で買いそろえるべきでしょう。液体窒素をお店から買ってきたとして、その容器からマシンに注入するために、詰め替えに使う耐寒手袋だって5万円以上するようですから、かなりの出費を覚悟しましょう。


ちなみに、窒素は安定なガスなので毒性はありません。このマシンを使うと、低酸素血症、いわゆる酸欠で逝くわけです。


酸素濃度  一般に言われる人体への影響

21%   通常の空気の状態
18%   安全限界だが連続換気が必要( 関係者以外立ち入り禁止)
16%   頭痛、吐き気
12%   めまい、筋力低下
 8%   失神昏倒、7~8分以内に死亡
 6%   瞬時に昏倒、呼吸停止、死亡
http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/dl/040325-3a.pdf#search=%27酸欠%27

この自殺マシン、ボタンを押すと4Lの液体窒素が気化して、このおしゃれな棺桶に3000Lの気体の窒素が充満して低酸素で死ぬという寸法です。


理屈がシンプルならば、わざわざこんな機械に頼らなくても、自分の車を棺桶にしたほうがまだ現実的というものです。どうしたらよいでしょうか。


閉鎖空間中の酸素濃度を下げるならば、ドライアイスが無難じゃないですか。これから暑くなりますしね。amazonでも売ってますけど、手に入れるには、気化してドライアイスが小さくなったり、最悪の場合はすっかり揮発してなくなってしまうかはもしれないので、近くの店で買いたいところです。

ドライアイスの形にもいろいろあって、おなじみレンガ状の「ブロック」、少し小さい「アイス」、文字通りの「ミニナゲット」、パウダー状の「スノー」があるようです。
細かい雪のようなスノーが揮発しやすく便利ですが、買った後ですみやかに揮発してしまいそうですから、ブロックで買ってきて車内でがりがり砕くのがいいでしょう。冷たくて硬いので、軍手とアイスピックはくれぐれもお忘れなく。


また、炭酸ガスは不燃性で、燃焼を妨げる効果があるため消火器にも使われます。
メーカーのうたい文句はこんな感じです。
【お掃除が不要】二酸化炭素は放出後に気化。後に何も残らず使用後の汚れなし。
【化学変化なし】不活性ガスで金属・電気機器類・油類などに化学変化なし。
【維持管理が簡単】通常の保管で経年による変質がほとんどなく、維持管理が容易。
【感電の心配なし】高い電気絶縁性。

消化器としてはいいことづくめですが、粉末が飛び出す普通の消化器よりは若干お高めです。


液体の炭酸ガスが詰まった消火器をワゴンRの車内で噴射したとします。
7型消火器に詰まっている炭酸ガスは3.2kgなので、全量が気化すれば、
3.2kg/ 44.0g/mol × 22.4L/mol 1.629

軽自動車からのガスの出入りがないものとし、圧力上昇など細かいパラメータは一切無視すると、
発生した炭酸ガス1.629 /(車室の空気4.199㎥+発生した炭酸ガス1.629㎥)
1.629/5.82827.95%

と大幅に致死量を超えます。息を大きく吸い込めば、高濃度の炭酸ガスと低酸素のダブルパンチで一挙に昏倒し、そのまま逝ってしまいます。ドライアイスを買い集める手間よりは楽です。安全ピンを抜いてノズル(炭酸ガス消火器では先っちょのことをホーンと呼ぶそうです)を握りしめて、床に向けて噴射するだけです。



途中で救出されると、低酸素脳症でいわゆる植物状態になりますので、決して見つかってはなりません。そもそも死ぬほどつらくなったら精神科に相談することをおすすめします。

日本でもできる「安楽死」について、医者として質問に答えます。

聞きたい情報があればこちらからお寄せ下さい。
https://docs.google.com/forms/d/1nwfWK0bg3ILwCWzdYpF1eu4MjgRpuTn5Szb6-uMQo4s


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