2018年8月7日火曜日

経管栄養で糖尿病で

経管栄養ですが、こんなケースも有りました。

ーーーーー
94 歳女性
【主訴】発熱
【現病歴】特別養護老人ホームに入所中。寝たきりで意思疎通は困難で、自力で食事が摂れないため経鼻経管栄養。誤嚥性肺炎による入退院を繰り返していた。
【既往歴】脳梗塞。腰椎圧迫骨折、2型糖尿病、高血圧症、右大腿骨頸部骨折、急性胆嚢炎, 誤嚥性肺炎
【生活社会歴】喫煙歴なし、飲酒しない、要介護5
ーーーーー

医療介護業界以外の方からは、私達に対して「90歳過ぎて治療すんのかよ」とか「年寄りをネタに儲けようなんてクソが」とか指摘されるのだろうと思います。そりゃあ、あっさりテイストの医療にして、自然に任せるのがいいのでしょう。

そうはいっても、こんな図式ですから無理というものです。
・医療業界:生命体として長く生かすほど、診療報酬が入ってくる。
・介護業界:施設の稼働率を上げるために、いつまでもいてもらいたい。
 (空床だと一円も生まない。新たな客を捕まえてくるにもコストがかかる)
・本人の家族:長く生きててもらえれば、年金がもらえる。(年金は家族の生活費)
 できればいつまでも入院しててもらえれば、年金を使わないでよくて助かる。
 (いろんな減免を使いこなせば、医療費のほうが介護費用より安かったりする)

家族の満足やスタッフの給料を出すためにも、イヤイヤ延命せざるを得ないんですよ。

ーーーーー
某年から2型糖尿病の内服加療が開始され,近年は1日あたりグリメピリド(0.5mg) , シタグリプチン(50mg)、ミチグリニド(10mg) でHbA1c 9%台,随時血糖値 250 mg/dl程度。
某年X月Y日から38°C台の発熱と酸素飽和度の低下(86~87%)を認め,同日救急受診。
ーーーーー

経管栄養あるあるです。また誤嚥でもしたかなあというところ。
CTでは両肺下葉と右肺上葉背側に浸潤影。誤嚥性肺炎でビンゴ。

ーーーーー
血ガス:血糖値 1032 mg/dl, pH 7.407, HCO3- 19.7 mmol/L, 血漿浸透圧369 mOsm/L, BUN 66.1 mg/dl, Cre 0.74 mg/dl
ーーーーー

高血糖高浸透圧症候群もかぶってました。
これは高齢者に多くて死亡率は 16.0%と高いです(Fandini G)。
管理がいまいちの2型糖尿病、誤嚥性肺炎、寝たきりで水が容易に飲めない、というコンボで高度の脱水に至ったわけですね。

まずは血糖を下げるわけですが、大量の補液をぶちこむと心不全になるので、結構たいへん。インスリンも持続静注しながらカリウムの値にも気をつけながら治療します。


この方も家族でバトルがあったようです。
●面会によく行く近くの家族A
「もう寝たきりだし、治療したからといって話したり歩いたりできるわけでもない。ただただ延命させるのもかわいそうだ。救急車は呼ばなくて良い。自然な形で」

●お盆と正月ぐらいしか面会に来ない東京の家族B
「田舎だからといって手抜きは許さない。とことん治療してもらわければならない。ドラマのコードブルーみたいに、ERで一生懸命やってもらって当然」

●家族Aの息子C
「もうこんなふうに(注:ねたきりよぼよぼ)なってんのに今さら治療してどうすんの?じいちゃんのところ(注:天国)のところに送ってやればいいじゃん。」


我々は病院に来たからには治療せざるを得ません。治療しないのならば病院に連れてきてほしくないわけです。

幸い、肺炎も高血糖高浸透圧症候群も治って退院の運びになりました。
すっかり寝たきりですから、介護施設に戻るために寝台車の介護タクシーが必要です。運ばれてきた時は救急車でしたが、帰りまでタクシー代わりに使うことは当然できません。遠くの施設まで介護タクシーだと数万円かかります。

家族から恨み言を言われました。
「お前が助けたからこんなに無駄なカネがかかる」

「おれたち、一体誰のために仕事してるんだろうなあ」とネスレのインスタントコーヒーにお湯を注いで一気に飲み干して、また老人施設からの救急車を迎え入れるのでした。

日本でもできる「安楽死」「尊厳死」について、医者として質問に答えます。
聞きたい情報があればこちらからお寄せ下さい。
https://docs.google.com/forms/d/1nwfWK0bg3ILwCWzdYpF1eu4MjgRpuTn5Szb6-uMQo4s

0 件のコメント:

コメントを投稿