2018年7月20日金曜日

薬で死ぬということ

医薬品の役割は何でしょうか。病気を治癒させたり、症状を軽減するためですね。少なくとも医薬品は人生を終わらせる目的で開発されることはありません。しかし、意図されていない方法で使用すると死に至る薬は存在します。わかりやすいのは、決められた用量を超えて過剰摂取することです。

どうやって薬を摂取するかですが、最も簡単なのは口からごくっと飲みこむことです。特別な装置が何もいりません。その気になれば、誰の助けもいりません。自分ひとりの決断と行動で可能です。重度の病気で苦しんでいて、もはや人生を終わらせたい人にとって最適かもしれません。特殊なデバイスがいらないのですから、ある朝、布団で突然亡くなっていても、駆けつけた警察官が検視した際に、「自然死」「事件性なし」として扱われる可能性が高いといえます。そのあたりを概説しましょう。

●死体と警察
日本では、介護施設や病院以外で死体が見つかると警察官が呼ばれます。一軒家で孤独死したら腐ってどろどろに溶けていたり、山菜採りに行ったきり帰ってこなくなったばあちゃんは白骨死体かもしれません。死に様はいろいろですが、「医者が最期まで見届けました」という死亡診断書がないと、警察が出張ってきます。 

病院で亡くなったとしても、家に連れて帰る際に、看護師や葬儀屋から「死亡診断書は持ちましたか?」としつこく聞かれます。めったに無いですが、輸送中に警察に職務質問されて、車から死体が出てきたら、立派な事件です。死亡診断書をぱっと提示できないと、「ちょっと署まで」となってしまうのです。

「ただの紙切れに高いカネとるし、警察と結託して医者の利権じゃねえか」とか言われることもあります。ただ、1人の人間が亡くなったことを証明するという、死亡診断書の重みを感じていただきたいです。医者が診断書を一通書くにしても、なるべく丁寧な字で(私はもともと字が汚いので、どんなに時間をかけても下手は下手ですが)、患者さんの背景、闘病の経過や回診でのやりとりなどに想いを寄せながら、万感の思いでしたためていることは覚えていただければと思います。

通報を受けた警察官が来ると死体の服を脱がせて外表を観察します。これを検視と呼びます。警察署から数人の警察官がきて、チェックリストにそって細かく見ていきます。検視でこれはあやしいぞ、事件の疑いがあるぞという死体は、解剖や毒物検査に回ります。かつて相撲部屋でリンチ殺人が見逃された失敗などから、死因・身元調査法という法律が2012年にできました。ただ、予算不足は以前のままなので、徹底して調べるのは相当怪しい死体に限られているようです。海外ドラマに出てくるニューヨーク市警やNCISなどとは比べ物になりません。 繰り返しますが、死体の見た目におかしい点があるかどうかが分かれ道になります。

●在宅医療と警察
自分の家で療養中に亡くなることもあります。何かの病気でかかりつけの医者がいて、その病気で死んだと説明がつくのなら、いちいち警察が介入することはありません。末期がんで余命の短い人がしだいに弱って亡くなったとして、わざわざ警察官が家にドカドカ上がり込んで、捜査するでしょうか。日本で1年に亡くなる人は100万人です。そんな膨大な数をいちいち捜査していたら警察がパンクするでしょう。

がんの患者さんが他界した場合、医学的に筋が通っていれば、かかりつけ医は「がんの経過として矛盾しない」と考えて、「●●がん」による死亡ということで死亡診断書を発行してくれます。ただ、もし末期がんの患者さんが、自らある種の薬を飲んで最後の一歩を踏み出したとしたらどうでしょう。見た目に異常がなければ、かかりつけ医も見逃すでしょうし、警察に連絡が行くこともありません。ましてや解剖されることはほぼ無いでしょう。

剖検(解剖)が行われた場合には、血液検査がされますので薬物の過量摂取であれば、死因となった薬物が見つかります。しかし、「病死」としてお葬式を出して、火葬して遺骨をお墓に納めるという道筋がついている人を、解剖しないまでもわざわざ死後に採血して薬物検査したりして、ことを荒立てるかかりつけ医がどれほどいるでしょうか。開業医は過当競争にさらされています。変な評判が立つことは望みません。

静かに流行している死後の画像検査(いわゆるAi)だってそうです。死後だと健康保険が効きませんから、遺体の搬送や撮影費用だってべらぼうです。都会だとAiしてくれる施設もありますが、地方だと「遺体と患者さんを同じ機械で撮りたくない。変な噂が立つ」といわれて拒否されるところも多いです。

保険金も絡んできます。病死だと生命保険で保険金が出るでしょうが、もしも自殺の疑いがでたら、保険会社が調べに来て保険金の支払いを渋るかもしれませんから、家族が資金を出してまでAiするとは思えません。遠からず亡くなる人というのは、家族や関係者も含めて予定調和の中にあるので、それを乱すことは望まれないのです。

安楽死・尊厳死のために経口薬を飲むだけなら簡単じゃないか、と思ったあなたはあわてんぼうです。失敗しないために、何の薬を使い、どうやって準備し、効果的に服用するかについて、十分理解しておく必要があります。このブログでおいおい書いていきましょう。

そもそも死にたくなるほど辛いときには、まずはかかりつけ医や心療内科、緩和ケア内科などに相談するのがおすすめです。力になってくれるはずです。



日本でもできる「安楽死」「尊厳死」について、医者として質問に答えます。
聞きたい情報があればこちらからお寄せ下さい。
https://docs.google.com/forms/d/1nwfWK0bg3ILwCWzdYpF1eu4MjgRpuTn5Szb6-uMQo4s




0 件のコメント:

コメントを投稿